17-40 この子だけは
ねぇ赤ちゃん。先読の力はね、母から娘に受け継がれる力はね。とっても強いのよ。だから生まれたら、この守り袋を譲るわ。
これは大蛇神の愛し子、マルさまが作ってくださった品なの。婆さまが良山を出る時、手渡された品よ。
それを大泉を出る時、母さんが貰ったの。
「あっ、動いた。」
うふふ。会えるのは、もう少し先ね。
山守の民を、あの村を滅ぼさなければイケナイ。そのために、そうだ。闇の力で追い詰めて追い詰めて、死にたくなるまで追い詰めてから穴を掘らせよう。
「グフッ。」
岩の裂け目から出された八は、祝社に戻ってからオカシクなった。
「笑っている。」
みつ守がポツリ。
「胸がゾワゾワする。」
ふたつ守もポツリ。
「ひとつ守に。」
「うん、お伝えしよう。」
ふたつ守には対象に闇を植え付け、支配する力。みつ守には対象に闇を植え付け、操り動かす力がある。どちらも闇の力で、八が持つのも闇の力。
ひとつ守には強い清めの力があるが、八も隠の守。それなりに長く祝社に居るので、思うようにイカナイ。
それでも何とかしようと、清め水を浴びるほど飲ませている。
「ひとつ守。八が、前から悪かったケドもっと、もっと悪くなりました。」
みつ守が訴える。
「あの感じ。山守の祝を苦しめた、あの呪いの種です。そんな気がします。」
ふたつ守が怯えながら続けた。
「そうですか。」
八は手を出してはイケナイ何かに手を出したか、手を出そうとした。だから呪われたのだろう。
「見守りましょう。闇の底から這い上がるまで。」
「はい。」
「そうします。」
祝辺から届けられる品は減りに減り、山守の民を苦しめていた。人が少なくなったから減らされたのだが、そんな事にも気付かない。
ただ、ただ恨みを募らせる。
「子を産めぇ。」
ズッコンバッコン。
「孕めぇぇ。」
ズッコンバッコン。
血走った目で腰を振るが、突っ込んでいるのは尻の穴。
山守の若い女は逃げ出し、捕まって死んだ。飲まず食わずで穢され続け、泡を吹いて死んだ。
次に狙われたのは子持ちの女、その次は幼子。その次は年寄り。
結果は同じ。飲まず食わずで弱りに弱って、泡を吹いて死んだ。
「産めぇ。」
バンバンバンバン。
「増やせぇ。」
バンバンバンバン。
山守の女、全てが死んだワケではない。
誰の子なのか分からないが、己が産んだ子に違いない。だから嬰児を、生まれたばかりの我が子を託したのだ。山守社に。
血走った獣が眠っている間に、息を切らせながら駆けた。フラフラしながらも転ばないように、血が止まらなくても休まずに駆けた。
その命を削って。




