17-39 諦めて呪われろ
八に恨みを抱くのは烏ダケではない。ここは鎮森、隠が助け合って暮らす森。
四方八方、敵だらけ。
「喰隠から出られたのに。」
いやイヤいや、考えてみろ。狭いし辛いがココは喰隠より、ずっとずっと過ごし易いじゃナイか。
「耐えられる。あはは、耐えられるぞ。」
八の頭からジロの事がスッカリ抜け落ち、どんな罰も喰隠でのアレコレに比べればマシだと考えるようになっていた。
ある意味、危険かもしれない。
「鎮野の先見が子を産めば、育ての親が連れてくる。」
ククク。
「その子を継ぐ子にして、逃げられないように手を掛ける。」
グフフ。
「キノと同じように。」
ハッハッハ。
もし、そうなったら動くよ。鎮森の愛し子が。
母は光の剣を生まれ持ち、父は光の珠を生まれ持った。その、たった一人生き残った倅がユタ。
嚴が産んでくれた子を取り返すためなら、どんな手も使う。その思いに応えるよ、カヨなら。
山守の祝にしたように、呪って奪って狂わせるだろうね。
「女なんて子を産むためにぃ?」
声が出ない。
「コヲウムタメニ、ナンダ。」
誰だ!
「コタエロ。」
子を産むために生まれてきたんだ。その気になればバカスカ産めるんだから、その中の一人を攫っても。
「サラッテモ?」
その時は悲しむだろうが、次を産めば忘れる。
「・・・・・・ツヅケロ。」
祝辺には他より集まるが、それでも祝の力は弱くなっている。強い力を持つ子を増やさなければ御山、いや霧雲山の統べる地を守れなくなるだろう。
そうなる前に動いているのだ。誰も遣りたがらない事を。
「ハフリベガ、スルコトカ。」
そうだ。
信じられない。いや、コイツは同じだ。山守の民と同じ生き物だ。人の守、継ぐ子になる前から変わっていない。
生まれ持ったモノだろう。
呪いの種を植えても飢えても芽が出ないのは、この男が闇の力を持っているから。あぁ、隠になる前なら違ったのに。
腐っても隠の守。
前に植えた時より力が、闇の力が強くなっている。これからもコレが清められなければ、いつか清められても変わらない。
いや待てよ。人なのに人とは違う『何か』を持った、あの男なら。赤目の犬を従える、あの男の力を受け継ぐ子なら。
他とは違う『何か』を持って生まれた子なら変えられる、のではナイか。
「ヴッ。」
何をした。
「グッ。」
胸が苦しい。
先ずは山守、それから山越の民を残らず絶やす。それを妨げるなら、その気が無くても消す。
喜べ。じっくりコトコト煮込んだ毒をタップリ注いで、その体の奥の奥までトコトン染み込ませてやろう。
「結ぁぁ。」
助けは来ない。諦めて呪われろ、八。
「呪いのぉ、呪いの種がぁぁ。」
おや、気付かれたか。まぁ良いさ。届かないから。




