17-38 突ぅく
そうだ、鎮野は根の国に繋がっている。その道を塞ぐのは鎮野社。御坐すは鎮野神。
「御婆、森に入ったね。」
社の司に問われ、考え込んだ。
「・・・・・・あの時。」
先見さまは契るまで、この婆が守っていた、なのにユタに、鎮森に認められた祝人と暮らすと。
あの男。木の声が聞こえるが、そこまで強い力を持ってイナイ。なのに次の社になると言われている。だから認めた。
認めたが気になり、暗くなってから確かめに。それで見つけた。森の、鎮森の奥で光る『何か』を。
アレは祝の力で、悪いモノでは無かったように思う。となると。
「祝辺の守。」
闇の力を持つ、隠の守。
「風が、うねった。」
だから確かめようと、森へ。
前の社の司が言っていた。
祝社には八という、闇の力を持つ隠の守が居ると。強い力を求めて眉ひとつ動かさず、言えないようなコトをすると。
あぁ、そうか。八に、闇の力を持つ祝辺の守に操られていたのか。先見さまとジロの子を攫い、祝社に届けさせるために。
そのために、この身を。
「祝辺の守か。」
手の掛かるヤツに目を付けられたな、御婆。
「月の光を、そうだな。三つ周り浴びておくれ。」
「はい、紅さま。そうします。」
グヌヌ、隠だが苦しい。が耐えられる。
アレは確かに前の禰宜で、先見の力を持つ女を守る者。きっと他とは違う、強い力を持つ男と契らせる。
そして生まれた子を攫い、鎮森を抜けてコチラへ。
クックック、苦しいが耐えられるぞ。
先見と強い力を持つ者との間に生まれた子だ。きっと、きっと恐ろしく強い力を生まれ持つに違いない。今から楽しみだ。
あぁ、そう考えると。いや苦しいな。
「結よ、もう良かろう。ここから出しておくれ。」
今すぐ出しやがれ!
「カァア。」 ダスモンカ。
夜なのに羽を掴み、巣から連れ出した。眠かったのに、断ったのに、嘴で突いたのに操られて。
でさぁ、死んじまったよ。
あの犬、この身を蓋にしやがった。賢いよな。骸だと操れないから、岩の裂け目に捻じ込める。
死ねば痛みを感じない。だから何とも思わなかったよ。
いや違う。『もっとヤレ』って、『コイツを逃すな』と思った。羽をバタバタさせて風を送り、いや送れなかったケド思い切りバタバタした。
「平良の隠よ。八が出る事は無いと思うが、その時は頼みます。」
「カァッ。」 オマカセクダサイ。
突ぅく。
出てきたら突いて突いて、突きまくって穴だらけにしてヤル。カッカッカ、ワクワクするぜ。楽しいな、おい。
もう直ぐ生まれる雛よ、父は遣り遂げるぞ。悪い隠を懲らしめて、平良の烏を守ってみせる。この声が届かなくても、触れられなくても守るからな。
だから健やかに育って幸せになれ。
「おい平良、何とかイデッ。」
刺した? 今、何かでブサッと刺しただろう。
嘴か、いや違う。もっと細くて長い、そうか。羽を抜いて刺したな。そうだろう、そうとしか考えられない。
「カッカッカ。」 ナンノコトデショーカ。




