17-37 何を言い出すかと思えば
舞と満は夫婦で、紅の幼馴染。揃ってナタの母、タエとも古い付き合いである。
舞は鎮野社の祝女、満は祝人だが紅は社の司。御婆さまでも逆らえない。
「ユタ、家に戻りなさい。先見さまが動けるようになるまで、この母がシッカリお守りするわ。」
「はい。お願いします。」
御婆さまには任せられない。そう思っていたから母さん、父さんにも伝わったのかな。
それにしても気になる。御婆さまの、あの目。何となくドロンと、目の奥に黒いモノが広がっていた。
「闇に取り込まれたか、それとも。」
呪いの種か何かを植えられたのか。
「ヨシ、決めた。」
祝女頭と祝人頭に急ぎ、お伝えしよう。
鎮野社の祝女頭になれるのは、強い守りの力を生まれ持つ者。鎮野社の祝人頭になれるのは、強い清めの力を生まれ持つ者。
どちらも今、産屋の近くに居る。
御婆さまが何を宿していても、何を隠していても逃げられない。
閉じ込めて清められ、月の無い夜から月の無い夜まで月の光を浴び続ける。
ジロ。
御山の外、乱雲山から来た男。祝辺の守に認められた谷河の狩り人か忍び、木菟や鷲の目に連れてこられたのか。
いや違う。
あの男は人とは違う『何か』を持っている。
その『何か』が何なのか分からないが、鎮野を変える力を、祝辺の守とは違う力を持っているのだ。
「それで?」
「わからぬのか。」
???
「次はユタの子ではナク、ジロの子を産ませるのだ。」
誰に。
「何だ、まだ分からぬのか。」
???
「ジロとナタを引き離し、嚴と添わせるのだ。」
ナニイッテンノ、コノヒト。
ジロはナタを、ナタはジロを心から慈しんでいる。ナタの腹にはジロの子が居り、生まれるのを楽しみにしている。
そんな二人を引き離す? 出来っこない。
ナタは大泉から預かった、強い力を生まれ持つ娘。社の司である紅が後見になり、村外れで暮らしている。
その家を守っているのは山で暮らす、赤い目をした白い犬。
「強い男は、その種を」
「止せ、聞きたくない。」
ナタが持つ力は先見とは違うが先見に似た、とても強い力なのだろう。だから何も言わず黙っている。
先見の力が無くても判るさ。言えば子をバンバン産ませるために閉じ込めて、祝人を放り込むと。
祝辺の守になりたかったのか、御婆さまは。もしソウなら鎮野社ではなく、祝社の継ぐ子になれば良かったのに。
思い通りになるとは思えないがな。
「鎮野は祝辺とは違う。」
そんなの、当たり前だろう。
「いつか祝辺が、祝社が動く。」
いやいや御婆、何を言う。末の事なんて見えない、読めないだろう。
「力を、少しでも強い力を持つ子を増やさなければ。」
増やさなければ?
「祝社に乗っ取られるぞ。」
「何を言い出すかと思えば、御婆さま。鎮野社が何を守っているのか、忘れてしまったのですか。」
「なに、を。」
ドロンとした目の奥がピカッと光った。




