17-36 話を聞け
コラーゲンが豊富に含まれた熊肉を、お腹いっぱい食べたからだろう。鎮野の民は女の男も、玉のように美しい肌をしている。
体力がついたコトで農作業もラクラク。山の幸にも恵まれ、山の奥に入らなくても暮らせるようになった。
結果、新しい命がポコポコ。
「ホギャァ、ホギャァ、ホギャァ。」 ヤットデタ、ツカレタ、ナンカサムイ。
「嚴、男の子ですよ。強く、大きく育つでしょう。」
取り上げたのは『御婆さま』と呼ばれる、先見さまの養育係。
「よかった・・・・・・。」
安産だったが疲れ果て、スゥっと眠りにつく。
先見さまの第一子は男だった。その知らせはアッと言う間に広まり、鎮野社にも届く。
喜んだのは父であるユタ、ユタの両親である舞と満。鎮野の社の司、紅。村外れで暮らすナタとジロ。
「女では無いのか。」
先見の力を受け継ぐのは、母から力を受け継げるのは娘だけ。
「スルリと生まれたなら。」
次に望みを掛けよう。
「そう、だな。」
先見の力を受け継ぐ子が生まれるまで、待つ事しか出来ない。
嚴とユタの間に生まれた、待望の第一子の名は『夕』。生まれる前から話し合い、決めていた名だ。
女の子なら『樹』と、生まれる前から決められている。
己も、前の先見さまも齋、嚴、樹の順に名づけられ、御婆さまに育てられた。
「ありがとう。」
生まれたばかりの嬰児を抱き、疲れ果て眠る愛妻に声を掛ける。
「ゆっくり、お休み。」
次の子が、女の子が生まれるまで共に暮らせる。この幸せは長く続かない。だから怖くて怖くて、叫びだしたくなる。
『嚴は人だ! モノでは無い』と。
「ユタ、そろそろ。」
外に出ろって?
「嚴が目を覚ますまで」
「ナラヌ。」
御婆さま、そりゃナイぜ。
ココを離れたら嚴を叩き起こして、冷たい目をして言うんだ。『次は女を産め』と囁くように、耳の近くで言うんだ。低い声で。
「その子を連れて出ろ。」
産屋に男が居座ると、次も男が生まれる。そう言いたいんだろう。
「女なら、女の人なら許されるのか。」
夕を優しく抱いたまま、射るような目をしてユタが言う。
「そうだ。」
御婆さま、少しは迷おうぜ。
トントン。
「鎮野社より参りました、舞です。」
返事を聞く前に産屋に入り、ユタの肩をポンと叩いた。
「御婆さま、お疲れでしょう。」
「いや、そんな」
「満、お願い。」
「鎮野社より参りました、満です。」
「知っとるわ!」
「さぁさ、こちらへ。」
「紅まで。何を考えて、コラッ。話を聞け。」
 




