17-35 悪いヤツ
『悪いヤツ』を岩の割れ目に置き、烏の骸を使ってグイグイ押し込む。森から風が吹いたら離れ、木の陰に隠れ、ポワンと光るまで動かない。
「・・・・・・。」
光った。ヨシ、戻ろう。
鎮野にも狩り人は居たが、熊を狩れる者は居なかった。だから熊を遠ざけるため、板を棒でカンカン叩きながら森に入る。
逃げたのは熊ダケでは無い。他の獲物にも逃げられ、肉より魚を食べる事が多かった。そんな鎮野に来たのがジロ。
「鎮野に熊を狩れる、強い狩り人が移り住んだ。」
山守の村長が胸を張る。
「選ばせよう。」
ザワザワする民を見つめ、ニヤリ。
山守神は他と違う『何か』を生まれ持つ者を御求めだ。生贄として捧げれば、きっと御喜び遊ばす。
山守社が祝を選ばなくなって、この村は大荒れに荒れてしまった。
皆、同じコトを考えているだろう。生贄、人柱を出すのはイヤだと。だから攫った、攫い続けた。なのに、もう出られない。
そんな力は残ってイナイ。
「女が減った。子が生まれない。山越に行かせても戻らない。このままで良いのか。」
「良くない!」
山守の男衆が叫ぶ。
祝辺から貰える食べ物は、山守の民が減れば減るダケ減らされる。皆で分ければ飢えずに暮らせるが、山守の民は他の民より欲深い。
だから常に腹ペコ。
「このままでは人が居なくなる。」
「山守の村が滅びてしまう。」
呪いの種になったカヨはテイの闇消滅後、祝辺深部と山守を行き来しながら山守断種計画を実行。その数が減る度、喜びの舞を舞っている。
山守の社の司、禰宜も薄薄、気付いている。
気付いていて動かないのは、知らぬフリをして見逃すのは認めているから。
「山守神の御怒りを鎮めなければ。」
「急がなければ御山が崩れてしまう。」
そんなコトは無い。
山守神は生贄も人柱も要らぬと、そう仰せだ。押し付けられれば社の奥で、サメザメと御泣き遊ばすだろう。
御山は祝辺の守が居る限り、その力を揮い続ける限り大きく崩れるコトは無い。
山で採れる食べ物が増えたのも、鳥や獣が増えたのも全て、山守の民が弱ったから。
「♪ 忘れるモンか そう思うのは いつか願いを叶えるためさ♪」
ニヤリと笑い、カヨが歌う。
「♪ 消せないと判った 闇に生きる光の中で力つける♪」
鎮森の民、ノリノリ。
「♪ 燃やせ! 怒りを取り込み 伸ばせ! 幸せを掴め いつか笑って暮らせる日まで♪」
鎮森の民の多くは山守の民に、ソレはソレは深い恨みを抱いている。『山守神に捧げる』とか『御山を守るためだ』とか言っていたが、楽しんでいた。
笑いながら嬲り、甚振り殺す。それが山守の民。
人の守になれなかった祝社の継ぐ子。他から連れてこられ、隠になっても戻れない継ぐ子。八に壊され、何も考えられなくなった継ぐ子も似たようなモノ。
対象が山守の民でナイだけ。




