17-32 近づけないよぉ
ジロは他の狩り人とは違う、とても強い『何か』を持っている。
他に考えられない。あんなに重くて大きな杭を持ち上げ、熊を仕留めたのだから。
「化け王に救われた、か。」
アンリエヌは大陸のズッと西、険しい山の奥に在る。はじまりの一族が人を守るために建てた、小さいけれど強い国と聞く。
大王と化け王が居て今、国を治めているのは化け王。
はじまりの一族には才と呼ばれる力があり、はじまりの隠神より長く生きているトカ。
化け王の才は収集で、すべての才を集めたとも。
「・・・・・・フム。」
サッパリ分からない。けれどジロから悪いモノを、ちっとも感じなかった。
「まぁ良かろう。」
化け王の臣が暮らすのは鳥の谷。
この御山でも見掛けるから、どこかに抜け道でも作ったのだろうよ。今のトコロ悪い話は聞かないし、何かを見張っている。
いや見守っているようだ。
祝辺の守が束になって守っている、この御山を生きて出入りするのだ。隠とは違う生き物なのだろう。
そんな生き物を遠くの地に赴かせ、その動きを。
「ん。」
ずっと昔、居たな。やまと人と違う姿をした、山の犬を従えた何かが。
「クゥゥン。」 ドウシヨウ。
この先から、あの人の臭いがする。なのに入れない。
餓死寸前で食べ物を、それも新鮮な熊肉を与えられた狼がウロウロしている。
ジロの家は高床式。梯子が上げられているが、軽く助走すればヒョイと上げれるだろう。なのにソウしないのはコワイから。
「クゥ。」 ナンダロウ、アノトリ。
森の端に生えている大木から吻を出し、クンクンと嗅ぐ。
近づかないのは大きな鳥が、コチラをジッと見ているから。少しでも近づけば冷たくて、透けている『何か』が鼻の先にブサリ。
痛くて痛くて堪らない。
良く見るのは姿を消せる、赤い目をした白い鳥。他にもイロイロな鳥が居る。けれど、あの白い鳥とは何もかもが全く違う。
大違いだ。
「キュゥゥ。」 シヌカトオモッタ。
ペタンと伏せてプルプル。
鳥なのに、あの大きな爪で尻を捕まれた。そのままグワッと上に下に。
偶に見るよ。シシの仔が鷲に捕まって、遠くを見ているのを。
あのまま巣に運ばれて、生きたまま啄まれるんだろうな。その前に大きな岩がヌッと出ている、険しくて高いトコロに落とされるか。
「クゥン。」 コワイヨォォォ。
とっても強くてオッカナイ鳥はスッと消えと思ったら後ろに。クルッと回ったら、また後ろに。そんなのはイロイロ居て、追いかけてみたけど見失った。
何だよ、あの鳥。
谷の底から風がブワッと上がっているのに、なのに突っ込んだんだよ。鳥なのに。鳥なのにさ、風に逆らって飛べるんだぜ。
「・・・・・・クゥ。」 ・・・・・・マダイル。
近づけないよぉ。




