17-29 愛する君のため
父さんゴメン。御山に居た時には解らなかったケド、愛する人との暮らしってさ。うふふ。パァっとして、周りが見えなくなるんだね。
あの時は『母さんしか見えてナイんじゃ』って思っていたけど、そんなの当たり前だよね。うんうん。世界って、こんなにキラキラ輝いていたんだ。あぁ、幸せ♪
「待っていてね。愛する君のために、とっても美味しい熊を狩るから。」
スキップしながら森を掛けるジロ。獲物、探索中。
「ナタの美容と健康のため、張り切っちゃいマス。」
るんるん。
熊肉、それも掌の肉が御好きだったフクさま。
御歳なのに若若しくて、とっても元気だったもん。愛妻のためなら熊の一頭や二頭、サクッと狩っちゃうヨ。
だって愛してるんだもの。
「キャッ、言っちゃった。」
いや言ってナイ、言ってナイ。
腹へった。目が翳んでフワフワする。みんな、ドコに居るの。怖いよ寂しいよ。
「おっ、見っけ。テイッ。」
ジロが熊の目に打ち込んだのは、太い枝の先を尖らせて作った杭。
「グヲォォォ。」 イタイィィィ。
熊が大口を上げて叫ぶ。
「もう一丁! トリャッ。」
パックリ開いた口中へ素早く、下方から予備の杭を打ち込む。文字通り、脳天直撃。
「ふぅ。」
ドサッと倒れた熊の後ろ足を縄で縛り、大木の枝に逆さに吊る。それから首筋をシュパッ。
クンクン。
「クゥゥ。」 チカイ。
フラフラしながら向かった先に居たのは、血抜きした熊の腹を切裂いて腸を抜くジロだった。
「ん、狼だ。」
若いな。
「群れから逸れた、にしてはボロボロだ。」
アレが噛み傷なら、群れから追い出された個体ってコトになる。
そうだ、アンリエヌで読んだ本に書いてあった。『群れと群れの戦いなら、最後の一頭が死ぬまで終わらない』って。
野生動物に餌付けするとロクな事にナラナイ。可哀想だが無視ムシ。
狩り犬は人に興味を持った狼が、人との暮らしを選んで森を出た。とか何とか書いてあった、ような気がするゾ。
「今は犬より、ナタとの子が欲しい。」
可愛いんだろうなぁ。
「男でも女でもメロメロになっちゃうよ。」
えへへ。
キリッとしたりダラシナイ顔になったり、クネクネしたり赤くなったり。そんなジロを見て首を傾げるのは、通りすがりの鎮森の民。
遠巻きにしているのはアブナイ人だと思われているから、なのでしょうね。幼子を抱き上げたり、手を引いてソソクサと立ち去りました。
トサッ。
「ん、こりゃ酷い。」
倒れた狼を見て驚く。首や腿にベッタリついた血、浮き出た肋。とても見てイラレナイ。
「生きたいか?」




