17-28 喉元過ぎれば熱さを忘れる
八は人の守だった時から、ずっと変わらない。死ねば隠の守になり、何だって出来る。そう思っていた。
「ドウジデ、ゴンナゴドニ。」
『どうして』も『こうして』も無い。
「ゴンナゴドナラ。」
祝辺の守になんか、なるんじゃ無かった。
化け王が何だ、白い鳥が何だ。
あぁ見えるよ。ハッキリくっきり、羽の先まで見えるよ。それがドウした。だから何だ、何なんだ。そんな目で見るな。
見るな! 見るな! 見ないでくれ、頼む。
痛い痛い痛い、体が軋む。手が指が痺れて、あぁ目が。目が翳んできた、歪んで見える。
死ぬのか。隠なのに死ぬのか、消えるのか。
このまま消されて、いや違う。きっと奥津城に放り込まれて、喰隠より酷い扱いを受けるんだ。
「ビギマズ。」
あの狩り人、呪いの種にも手を出しません。
「オネガイ、ジマズ。」
お助け下さい。
隠だ。どんなに強く願っても、どんな姿になっても死ねない。ずっと、いつまでも苦しみ続けるだろう。そんな事を、そんな末を受け入れられるホド強くない。
強くないんだよ!
聞こえる。これまで痛めつけてきた、追い詰めて殺した者の叫びが。怒り、悲しみ、嘆きが纏わりつき、絡みついて離れない。
このまま絞め殺されるのか。それとも吊られ、ボロボロになるまで捨て置かれるのか。
「ドヅモリ。」
羨ましかったんだ。その姿、その生まれが。
あの狩り人、何となく似たモノを感じた。きっと生き難いハズだ。
見ない顔だから他から、谷河の狩り人か木菟、鷲の目に救われたんだろう。それで鎮野に、いや違う。御山の麓にある、小さな隙間から入って来たんだ。
そんな事、人に。
・・・・・・化け王なら、神とも祝とも違う力を持つ化け王になら出来る。そんなモノに手を出そうとした。だから今、こんな事に。
こんな扱いを受けているのか。
「アノビド、ヤミニモデヲ、ダジマゼン。」
やっと解りました。何をドウしても取り込めない、使い熟せないと解りました。やっと、やっと解りました。
「ヂガヅギマゼン。」
何が起きても、どんな事になっても決して。
「デズガラ、オネガイジマズ。」
この痛み、苦しみから解き放ってください。お願いします。どうか、どうか。
化け王が何を御考えなのか、何を為さるのか、何を御求めなのかサッパリ分からない。けれど隠が、祝辺の守が手を出せば終わり。
手を出して良い事ではない、という事は解る。
八がドコまで解ったのか、なんてドウでも良い事だ。今、これからも求められるのは近づかぬ事。手を出さぬ事。見守る事。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる。」
また繰り返すだろう。
「ワズレマゼン。」
この苦しみは去っても決して、決して忘れられないモノなんです。胸に、喉に突き刺さった棘が抜けずドクドクと血が、光りが、力が抜ける。
そんなモノなのです。
死ねないのは祝いでは無く、呪いだと気付きました。遅いのでしょうが、やっと気付きました。ですから、お願いします。
お許しください。




