17-27 耳の穴を掻っ穿ってよく聞け
山守神は霧雲山を、霧雲山を統べる神で在らせられる。山守の民が死に絶えても、この御山が在れば御隠れ遊ばす事はない。
御山が崩れ、流れるまで。
「そんな姿になっても、まだ求めるとは。」
八の手が空を切る。
「モウジワゲ、アリマゼン。」
とつ守に絶対服従を誓ったのに、とつ守が守ると決めた人や隠にアレコレしようと画策。
「八よ、耳の穴を掻っ穿ってよく聞け。あの男。鎮野の狩り人ジンは化け王に、その命を救われた器だ。」
これでもか! と開かれた目。ダラダラ流れる涎。その全てから闇が溢れ、八を苦しめる。
茂は山守の民に殺された者の怨念が集まり日中、土から出て人に捕らえらえた鼠に憑依した隠。とつ守の命を受け、時の守鼠になった今も強い闇耐性を持つ。
その昔、飢えた山守の民に己を食らわる事で体内から攻撃。溢れ出る負の感情を食らって成長。妖怪化する前に保護され、とつ守の使い隠に就任。現在に至る。
「ヂュッヂュッヂュッ。」
茂の笑い声に合わせるように八が肩を揺らす。その度に生気を吸われ、激痛が走る。
「ゴノォォォ。」
捕まえようとするも逃げられ、ベチャッと倒れた。
鼠は植物食。草の葉や茎、根。種子や果実などを食べているが昆虫類、蚯蚓類なども小動物も食べる齧歯類。
獣は日没後から日の出前に活動するが、幼獣は食物要求量が多く、日中も活動。
繁殖力が強く、個体数も多い鼠なのに食欲と睡眠欲が強く、性欲に淡泊。時の守鼠をウン十年も務め、毒耐性もゲット。
とつ守のために働く事に、この上ない喜びを感じる。それが茂。
朝から朝まで休みなく、とつ守のために働くのが当たり前。
「ヴッ、ギャァァァ。」
時の毒をタップリと塗った門歯で、八をガブリと直接攻撃。食らい付いたのは足ではなく首。それも頸動脈を狙ったので、脳と顔面に毒が回った。
「ヴヴヴヴヴヴヴ。」
頭部がガタガタと細かく動き、白目を剥く。
「御出で。」
「チュッ。」
とつ守に呼ばれ可愛くお返事。トコトコと駆け、その掌に乗った。
「さぁ、お飲み。」
アァンと素直に口を開き、匙で掬い取られた清め水をゴクリ。腹の辺りがポワンと光り、八に掛けられた呪いが消える。
「幸せそうな顔をして。」
時に頬を優しくツンツンされ、チョッピリ照れた。
何だ、何なんだコイツら。
とつ守がオカシイのは今、始まった事では無い。あぁ、思い出した。とつ守の使い鼠だったな、時の守鼠は。
今は小さくなっているが見たぞ。熊より大きな姿になって、山守の民から闇を吸い上げている姿を。
森の中で狩り人や樵の子を襲う、山守の民を食らう姿を。山守社と離れに火をつけ、焼こうとした山守の民を丸のみする姿を。
「化け王は神では無い。けれど祝の力とは違う、強い力を御持ちだ。その気になれば御山を崩せる。」
何だって!
「見えるだろう、白い鳥が。」
監視業務を務めるのはブラン率いる、アンリエヌ鳥類魔物集団。その大半が猛禽類。
「鎮野と大泉の民に手を出すな。ずっと昔から幾度も言い聞かせたのに、まだ解らぬようだな。」




