17-26 まだ気付きませんか
三十四代祝辺の守、時は取り込んだ毒素を体内で中和させたり、強める闇の力を生まれ持つ毒使い。男親は恐らく女なら誰でも良い、頭の弱い腰振りだろう。
女親は山守に攫われて逃げ出し、鎮森で産気づき自力で出産。その後、出血多量で死亡。
生まれたばかりの嬰児は、臍の緒をつけたまま泣き叫ぶ。
憐れんだ木が枝を揺らし、葉をワサワサさせて隠に告げた。『今直ぐ、とつ守を呼んでこい』と。
血の匂いを獣が嗅ぎつける前に、この子が凍え死ぬ前に何とかしなければイケナイ。
「八。」
時に呼ばれ、気怠そうに顔を上げる。
「なニを、しタ。」
毒が回り、上手く話せない。
とつ守に拾われた嬰児は二人目が生まれず、悩んでいる若夫婦に引き取られた。祝の力が表に出たのは、姉が山守の民に攫われた春の終わり。
娘は怯えた。
己を攫った男が泡を吹き、苦しみ藻掻いて死んだのだ。当然だろう。そんな姉の手を引き、家に連れ帰る時を見ていたのが八。
「覚えていませんか。前にも、ふふっ。」
八が見開く。
「モォォチィィィ。」
バケモノを見るような目から、怒りに満ちた目に変わった。
時は気付いている。八が己を攫い、祝社の継ぐ子にしてから虐げようとしていた事。思い通りに動かせる、そんな隠にと考えていた事にも。
とつ守は逸早く行動を起こし、時の後見になる。
基本的に継ぐ子は死ぬまで、親元に戻れない。けれど時は月に一度、家に戻ることを許された。とつ守に連れられて。
「おや、まだ動けるとは。」
驚きました。
「ユルザナイ。」
ギリギリと食い縛りながら、這うように近づく。
「ギャッ。」
守鼠、茂が八に毒を追加。
八が生まれ持つのは不安を増幅させ、心を操る闇の力。とつ守は身近に緑があれば安定するので、精神操作系の力は効かない。
つまり、八の天敵。
親元から離れた子の多くは、生まれ育った地では生き難い子。
祝社の継ぐ子になれば飢えず、凍えず生きられる。鎮森に認められれば祝社に辿り着き、認められなければ死ぬ。
時は鎮森の試しを受けてイナイが鎮森の民、隠たちに受け入れられている。理由は二つ。とつ守が後見となり、祝辺の守になった事。次に、山守の民を憎んでいる事。
「許さない、ねぇ。」
八が狙いを定めたのは、山守の祝を苦しめた呪いの種。山守社の北、大岩の洞に潜む多鹿のカヨである。
「まだ気付きませんか。」
琴を弾きながらティ小のうたを歌うカヨは人気者。鎮森と鎮森の民に愛され、とつ守に認められた存在。
そのカヨに手を出そうとしたのだ。監禁され、拷問されてもオカシクない。
生母の顔は知らないが、その記憶を受け継いだので山守の民を憎んでいる。『山守の民を根絶やしに』と考えるカヨを、時が応援するのは至極当然の事。
「ナニ、ヲ。」
とつ守にシッカリと守られ、すくすく育った時を止められるのは後見、とつ守だけ。
「ドヅ守ぃ。」
八が掴みかかろうと、腕を伸ばす。




