17-22 無駄に丁寧な挨拶
才を奪われた王族がアミより先に苦しんだのは、食らったソレの濃度が高かったから。盛んに溜めていた毒が回り、制御できなくなったから。
「生きたいと願うなら跪き、命乞いせよ。」
化け王が一歩、前に出る。と同時にエド大王、ジャド大臣、ウィ大臣が控えた。
「ヴッ。」
アミが唇を噛みながら拳を握り、冷や汗をかく。
全ての才を収集した化け王、歴代最強と謳われる化け王が目の前にいる。その化け王が己を生かすと、そう仰るのだ。何を迷う事がある! 急がなければ。
処分されても文句は言えない。なのに体が、思うように動かない。ナゼだ、どうして。頼む。頼むから動いてくれ今、直ぐに。
「よかろう。」
カーがアミの額をツンと突き、冷たく笑う。
勢いよく後ろに倒れ、ピクピク痙攣。
後頭部を強打したのだ、意識が朦朧となるのは当たり前。もうダメだ。そう思った瞬間、不思議なくらい頭がスッキリする。
ムクッと起き上がり、見上げると同時に血の気が引いた。
どんなに図太くても焦るだろう。
化け王の後ろに大王、その後ろに大臣。はじまりの一族が、王族が勢揃いしていれば。全身から嫌な汗がダラダラ流れ、生きた心地がシナイ。
「失礼しました!」
アミが蛙のように四肢を地に付け、土に額をゴンと打つけて首を垂れる。
「偉大なる化け王の御尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます。」
無駄に丁寧な挨拶をされ、表情には出さないがイラッとする。傍に控えていたヴァイスが舌をシュルリと出し入れし、アミを睨みつけた。
化け王の臣は美食家なので、新種とはいえ同族を食らったアミに食指が動くコトは無い。勿論、下手物にも興味ナシ。
「オ助けクダさり、あリがとウござイます。」
ギュッと目を瞑り、ころコロと声を転がす。
アミは考えた。『この場を遣り過ごせれば、次に繋げられれば勝算がある』と。
己は大王と大臣に認められた官吏。そう遠くナイ未来、化け王城に登城する事になる。旧王城なんて呼ばれているが、こんな地下空間で一生を終える器じゃナイ。
化け王の臣は皆、魔物。城外で活動するのは難しいハズ。だから新たな一族である己を、大王から高く評価されている己を欲するに違いないと。
「申せ。敵は、その見込みは。」
口に出ていた、のか。
「何を驚く。」
そっ、そうだった。当代は歴代最強と謳われる化け王。心の声やら考えた事やら、話したことや内密の計画なども直ぐに伝わるバケモノ。
アッ、違う。化け王に不可能など無い。だからその・・・・・・どうしよう、何も浮かばない。
このままじゃマズイぞ。何か言い訳、申し訳、言い開きぃぃ。
「敵はギリシア、いやローマ。見込みは、その。」
冷や汗、ドッバァ。
自己評価が高いアミは、やっと理解した。
大王に取り入る事も旅に生きる事も不可能。地上に在る化け王城なら魔族に限らず、地上の民でも仕えられる事を。




