17-21 生かすの?
才を奪われ藻掻き苦しむ、はじまりの一族を思い出す。ひ弱な人類を守る代わりに糧を得る。それを忘れて侵略戦争を繰り返した結果、何が残った。
貪欲に血を求める新たな一族は死に絶え、己の立場を弁える者が次代を担う。それでも、こういう輩が混乱させる。
「細胞、いや遺伝子に刻まれているのか。」
カーが呟く。
新種を食らった事で、魂の奥深くに潜んでいたモノが動き出したのだろう。面白い。どれだけ耐えられるか、この者で試そうじゃないか。
「コレは、もしかして。」
エドが考え込む。
己は神から選ばれたから、脆弱で愚かな民を導く使命を持つ。そう思い込んでいる危険因子か。
きっと迷えば迷うほど、厄介な事になる。その時、何が。
アンリエヌの国王はカー。
才を持たぬ、地上に出られぬ王族に国を治める力は無い。だからもう『玉座を奪う』とか『表に出る』とか、そういう考えはない。持てない。
「兄上。」
ジャドが声を掛け、黙り込む。
「同じだわ。」
ウィが呟き、目を伏せた。
「そうか。」
エドが微笑み、アミを見る。
きっと死んでも理解できない、する気もナイ。そんな目だ。このまま生かせば禍を齎し、多くの命が奪われるだろう。
それでも生かすのは将来、役に立つ何かを持っているから。もしくは、この男の子孫がソレをなす。
ベンが死んで思い知った。カーは父王の願いを聞き入れたダケで、己らを無条件に生かすツモリはナイ。血の繋がりなど関係ないのだ。
カーは化け王。アンリエヌの民を守るためなら王族でも、他国の民でも迷わず消す。
それで戦争になっても一瞬で片が付くし、『地下で生きる民の食料が確保できた』としか思わないだろう。
化け王は本当に恐ろしい。なぜ我らは、この王を見下していたのだろう。
半分だが血のつながりが無ければ。いやエンとルーが望まなれば、とっくの昔に処分されていたハズだ。
「バゲオヴ。」
アンリエヌの民が、こんなに苦しんでいるのにナゼ助けない。それでも王か。
「ダイオヴ。」
何をしている。官吏を、たった一人の官吏を見殺しにするのか。
カーが、化け王が何を考えているのか分からない。分からないが控える。手を出せば、きっと元に戻すだろう。
ジャドとウィに耐えられるとは思えない。だから今は。いや、これからも臣として生きるんだ。
「エド王。」
・・・・・・ハッ。
「はい。禍が齎される前に。」
この者を生かすか、それとも殺すか。処する。ただ、それダケの事。悩む必要はない。
「生かしましょう。」
「はい、エッ。」
エドが口を滑らせ、唇をピクピクさせた。
新種を食らって生き残った新たな一族のうち、異変が起きたのはアミだけ。
シアとクアは少し前に処置を施され、選ばれた者と穏やかに過ごしている。これから先、苦しむ事もない。




