17-16 手紙を書こう
アンリエヌを騒がせた堕天使が蠅王に引き摺られ、魔界に帰った。
同じ頃、旧王城地下。
「何が起きている。」
顔色が悪かったエド大王の体に変化が。
「兄上、見てください。」
酷く痩せていたジャドの体が、標準体型になった。
「ガサガサだった肌に潤いが、弾力が戻ったわ。」
酷く落ち込んでいたウィが、今にも踊り出しそう。
全身の血を抜かれ、逆さで壁や柱に塗り込まれていた兄妹。やっと釈放され再会を喜ぶも、外の様子がオカシイことに気付く。
その後、新たな一族の新種を食らった事でイロイロ変わった。
まず外見。処刑前より若若しく、髪にも艶が戻った。次に体力。立っているダケでも辛かったのに、力が漲っている。
加えて、驚くほど体が軽い。
「カーから戻された血は、もしかすると。」
とんでもない何かが混入していた?
「ジャド兄さま。獣の、なんてコトないわよね。」
ウィが両腕を抱くようにして怯える。
「違うだろう。こうなったのは恐らく、あの生き物。」
新たな一族の新種。
「カーは全ての才を収集した化け王だ。アンリエヌの民を実験台にしたり迫害したり、共食いするよう仕向けたりはしない。」
増えすぎた新たな一族を減らすため、男も女も生涯に持てる子は一人と定めた。たっぷり時間をかけたが、目標達成ならず。
それでも焦らず、のんびり構えた結果がコレ。
過激派と呼ばれる一部の者が暴走し、とある禁術に手を出した。
日光に耐性を持つ新種を生み出す事に成功するも、その新種がバケモノだと気付くのが遅れる。
「他の血も飲めるのか、もう飲めないのか。」
ジャドが遠くを見つめて呟くと、エドが弱弱しく微笑んだ。
「もう耐えられない。」
ウィが叫ぶように訴えた。
「カーは予知した。それでも、こんなに恐ろしい事になったんだ。何か理由があるのだろう。それが何なのか判らないが、大王として出来る限りの事をしようと思う。ジャド、ウィ。力を貸してくれるかい。」
エドは考えた。
新たな一族が暴走し、新たな一族を食らい尽くす。そんな未来を予知したのに何の対策も練らなかったのはナゼだろうと。
「これからドウなるか分からない。けれど何もせず、この場所で怯えるのは嫌。」
ウィが断言し、ぎこちなく笑った。
「あの生き物は狩り尽くし、もう居ない。これからは安心して休める。」
エドが微笑む。
「そうだね、兄様の言う通りだ。」
ジャドが明るい声を出す。
「そうね。」
ウィも続く。
変わってしまった体に、どのような異変が起こるのか分からない。これから先、何が起こるのか分からない。
それでも生きなければナラナイ。
「カーに会うには、どうすれば良いのかしら。」
「呼べば来る、ナンテ事は無いだろう。」
ウィの問いかけに、ジャドがお道化て答える。
「手紙を書く、のは無理ね。」
紙も筆記用具も無いから。
「そうでもナイぞ、ウィ。ほら。」
エドが指し示したのは、化け王城からの配給品。




