17-9 死ねば終わりだが
『慣れ』とはオソロシイもの。鼻が曲がるホドの悪臭にも、青白くなった顔色にも、ギラギラした目にも動じない。
強くなった? 違う。何も感じなくなったのだ。
時は巻き戻せない。戻せないなら戻れないし、戻れないなら悩むダケ無駄。ドウにもナラナイ。
ドウにもナラナイが、外見も中身も変わってしまったが生きている。死ねば終わりだが生きている。
それが全て。
「アミ。お前、宰相の甥だろう。」
「は? 止めてくれよ、クア。確かに血の繋がりはあるが、縁は完全に切れている。」
バルトの生みの親は過激派で、ずっと娘を欲しがっていた。双子の妹は一人娘。その溺愛ぶりは相当のモノで、長兄次兄もメロメロ。
放置された三男は当然ように兄と比較され、躾と称する虐待を受けて育つ。
「そうは言ってもよぉ。」
「シア、お前もか。」
餓死寸前で前宰相、フリツに保護されたバルトは特別養子。養子と実方の血族との親族関係は終了し、協議または訴訟による離縁は出来ない。
そもそも肉親から虐待を受けていたのだ。両親が逮捕されても、兄姉が逮捕されても知らん振り。
「二人とも良く聞け。親父も叔父も叔母も、寄ってたかってアレを虐待していたんだ。特別扱いなんて期待できねぇよ。」
薄情だの冷血漢だの言われても涼しい顔で、『新たな一族ですから』と一言。『甥だ』と言っても門前払い。良くて留置、下手すりゃ投獄。
引くしかナイ。
「じゃぁ何で釈放されたんだよ。」
クアに問われ、返答に窮する。
「大王の赦免を求めて、地上に出ようとしたのにさ。」
シアに返答を迫られ、唇を噛む。
保身を図った両親は兄を売る。お仲間も同じように、倅や娘を売った。
どの家門も禁を破り、複数の子を持つ。
理由は簡単。理想や組織の利益のために使い捨てに出来る、決して裏切らない駒が欲しいから。
「ウチの親だけじゃない。シア、クアの親だって釈放されたじゃないか。」
「それは。」
「そうだケド。」
親の組み合わせは違うが兄姉、弟妹が命を落としたのだ。何も思わないワケがない。
旧王城地下の一区画、古い本が乱雑に積まれた倉庫に入ったのも、見つけた小部屋に入り浸ったのも逃げるため。
地下空間、それも旧王城地下で暮らしているのだ。地上と違って逃げ場が無い。捨て駒にされた子の母が、泣きながら子の父を責める。
その姿を見るのも、その声を聞くのも辛くて苦しくて堪らない。
だから黙って抜け出した。抜け出して見つけた秘密の場所で、一時の安らぎを得る。
全ては己を、己の心を守るため。
「・・・・・・それよりさ、考えようぜ。」
フゥと息を吐き、アミが切り出す。
「考えるって何を。」
「決まってるじゃナイか、シア。分かるだろう?」
「分からねぇよ。何だよ、クア。勿体振るな。」
アミ、シア、クアは額を集めて相談する。これからドウ生きるのか、誰を頼るのかを。




