5-71 各社、大騒ぎ
霧雲山が統べる地、すべて。この度は・・・・・・。釜戸山の灰が降る、すべての地。それで、良い。
「平良、これへ。」
サッと、平良の烏が平伏した。
「山守社へ、先触れを。」
「はい。」
「山守神。祝辺の守より、先触れが。」
「そうですか。」
「そんなに、お嫌ですか。」
「早すぎる。真に、人の守か。」
「はい。今は、まだ。」
「・・・・・・で?」
「人ならざるモノ。山裾の地で、蠢いております。」
「そう。守なら、祓えるでしょう。」
「山裾の地は、霧雲山の統べる地。山守神、どうか。」
「でも、ね。私より、強いでしょう。」
「統べる地を治めるのは、神。祝辺の守は、霧雲山を。お忘れですか。」
「忘れてなど。」
「人柱ばかり求めると、いつまで?」
「そ、んな。求めてなど。・・・・・・ハァ。分かりました。動きます。動けば良いのでしょう?」
人柱なんて、欲しくない。なのに、山守社の祝。繰り返し、繰り返し、送りつけて来る。
祝辺の守にも伝えたのに、知らんぷり。
「シズエ。釜戸山の灰が降る、すべての社へ。『使わしめを、霧雲山。山守社へ』と。」
「はい。」
あちこちの社へ、山守神の使い、山越烏が。それはもう、大騒ぎ。たとえば・・・・・・。
釜戸山。釜戸神の使わしめ、ポコ。ひっくり返り、祝エイに助けられる。
蔦山。蔦神の使わしめ、ミャア。飛んで来た烏を見て、強烈な体験の記憶を思い出し、神の懐へ。ヨシヨシと撫でて頂く。
乱雲山。雲井神の使わしめ、ゴロゴロ。思わず、ニャアァァァと絶叫。祝フクに、モフモフされる。
日吉山。日吉神の使わしめ、クロ。木の実を喉に詰まらせ、神に背をポンポンして頂く。
岩割山。水勢神の使わしめ、シラユキ。夢でも見ているのかと、水の中へ。蛙を飲み込み、やっと落ち着く。
他の山も、同じようなもの。祝辺の守ではなく、山守神の使いが。
平良の烏より大きな、山越烏。いつもは悠然と飛ぶが、急ぎ届けるため、文字通り、飛んで来た。
しかも、長距離飛行でクタクタ。加えて、ボロボロ。
驚くな、とは言えない。迫力あるよ、大きな烏って。