17-6 変異
これが新種。
外見は新たな一族と同じだが、飢えた獣のような目をしている。一滴残らず吸い尽くした死体を引き千切り、骨までバリバリと貪り喰らう。
一体どれだけ飢えているのだ、あの生物は。
「兄上!」
唖然とするエドに、飢えた新種が牙を剥く。
「・・・・・・ジャド?」
エドを守ろうと飛び出したジャドが、新種に体当たりして見開く。グッと捻じ伏せた次の瞬間、信じられないものを見た。
新種の首に牙をたて、ゴキュゴキュと生き血を啜ると臓を掴み取り、貪るように喰らう。内臓の次は脳、その次は腸。それから四肢を千切り、バリバリごっくん。
アッと言う間に完食する姿は、飢えた新種と変わらない。
「ウィまで。」
思わず頭を抱えたくなったが、ある意味ココは戦場。生きるか死ぬか、ヤルかヤラレルか。
「そうだな。現実を受け入れ、生き残らなければナラナイ。」
父上が命と引き換えに、我らを御守りくださったのだ。こんな所で死ねない。死んで堪るか!
玉座の間に引き籠っていたエドは、ずっと絶食していたワケではない。気付けば脇机の上に硝子食器と、パック詰めされた血液が用意されていた。
ジャドとウィは絶食していたのだ。ギリギリの状態で踏ん張っていたが、目の前の動物が兄に襲いかかるのを見て動いてしまう。
その結果、牛飲馬食。
「ギャァァッ。」
狩る側にいた新種が狩られる側へ。
バルトたちが居る避難所は、化け王の力でシッカリと守られていた。けれど他の避難所は壁を壊され、惨劇の舞台となる。
ジャドとウィが釈放された時には、もう手遅れ。
新たな一族の大半が生きたまま新種の餌食になり、残ったのは深い闇。それを吸収した新種が変異し、エドたちを苦しめるコトになる。
「どうして。」
ちっとも満たされない。
「なぜだ。」
飲んでも飲んでも渇く。
「呪いか。」
揃って呟き、苦笑い。
血を糧に生きるようになり、犬歯が牙となった。けれど、これまでは引っ込められたのだ。
今は何をドウしても戻らない。
爪が黒く変色。顔色は相変わらず悪いが、血管が透けて見えるほど真っ白。髪色も変わらないが、鏡を見なくても分かる。
同じだ。
「あっ。」
鼠を見つけたウィが駆け出し、ガッと鷲掴み。そのまま血を啜りハッとする。
「私、どうなってしまったの。」
鶏を美味しそうだと思った事はある。けれど鼠を、そう思った事は無い。無かった。
「落ち着きなさい、ウィ。」
「兄上。」
エドの胸に飛び込み、泣きじゃくる。
兄から優しく頭を撫でられ、安心したのだろう。ウィがガクンと膝を折り曲げた。素早く横抱きし、向かったのは執務室の隣にある仮眠室。
選んだ理由は一つ。少し狭いが、王族専用の避難所に繋がっているから。




