17-4 誰でも良い、何でも良い
新たな一族は共食いした事で、その身に呪いを宿した。それを丸ごと食らって何もないワケが無い。
新種の目がギラギラと輝き、次次と倉庫に穴を開ける。
狭い入口を搔き分けるようにドッと入り込み、生きたままガツガツと貪るように食らう。けれど空腹を満たせず、絶えず探し求めるのだ。
新たな一族の生き残りを。
「誰でも良い、何でも良い。頼む。もう耐えられない。」
玉座から滑り落ちたエド王が、声を震わせて呟く。
「おやおや兄上、何ですか? その姿は。」
虚ろだった目に光が戻り、何度も転びながら近づいた。その先に居るのは化け王。
「頼む、会わせてくれ。ジャドとウィに。」
カーに縋り付くも筋力が足りず、ズルッと倒れる。
「お願いします。弟と妹に会わせてください。」
腹違いですが弟ですよ、私も。鏡を見る度ゲッソリしますが、似ていますからね。
男は母親に、女は父親に似ると美形になるトカ。それが本当なら美形、という事になるんでしょうか。
冗談はこれくらいで。
『化け王を弟と認めない』と言われるよりは良かった、そう思うようにします。だから叶えましょう。ジャドとウィに会いたいという、その願いを。
けれど、その前に選ばせなければイケマセン。
「エド大王。」
カーの目がスッと細められ、エドを捕らえる。
「選んでください。新種を含む、新たな一族を統率下に置く。新種の血肉となり、その精神を支配する。」
「どんな条件も呑む。だからジャドとウィを、弟妹を釈放してください。この通り、お願いします。」
エドが床に額を付け、懇願する。
「分かりました。では、こちらに血判を。」
予知の才で見た。解けない呪いを受けた兄姉が飢えと渇きに苦しみ、新たな一族と新種の死体を残らず貪り食らうのを。
血だけでは満たされず、死肉を求めるのを。
外に出られるようになっても王族は王族。安全地帯から出ず、生き長らえる方法を考えた。
それが己の血を新たな一族の生き残りに、酒に混ぜて飲ませる事。
「こっ、これで宜しいか。」
「確かに。では、参りましょう。」
ジャドとウィが塗り込められた柱は、新種でも破れない壁に守られている。ソコに瞬間移動させられ、転がるように駆けだすエド。
「ジャド、ウィ。」
フラフラと柱に近づき、愛おしそうに柱を撫でた。
「迎えに来たよ。」
涙を流しながら頬ずりし、語りかける。
死肉しか受け付けない体になるのに、揃いも揃って。
エドは同母から生まれた弟妹が居れば、それなりに良く働きますからね。期待してますヨ。
「エド王、こちらへ。」
「はい。」
大王は弟の、ベン大臣の愚行を止められなかった。反逆者の一員と見做され服役し、釈放後は精神を病み引き籠る。
現在、頭の中は弟妹の事で一杯一杯。
全ての才を収集した化け王に、才を奪われた大王が勝てるワケが無い。それに腹違いでも兄弟なのだ。きっと悪いようにはシナイ、なんて望みを抱いて。
「フッ。」
甘すぎる。そんな事で大王が務まるのか。




