16-88 家を建てるなら
アンリエヌで見た映画で、主人公が言っていた。『愛さえあれば年の差なんて』と。あの時は『いやいや、下手すりゃ親子じゃん』と思ったケド、今なら解る。
年齢なんて関係ナイ!
十二で死にかけ救われて、それから七年も経った。不老の才は二年、不死の才は四年、最終確認に一年。だから十七歳。
ナタが十なら七歳差、十一なら六歳差。女は男より長く生きるから、順番通りなら先に逝く事になる。
「ナタを幸せにしたい。だから少しでも長く生きて、ナタと生まれてくる子を守ります。」
命の灯が消える、その瞬間まで。
「ジロさんと共に生きたい。だから紅さま、お願い。母さんに伝えて。ナタは心から添い遂げたいと思う人と出会って、いろんな事を諦めずに生きると決めたって。」
ジロさんじゃなきゃ嫌。他の人と生きるなんて、肌を重ねるなんて考えられない。
先見さまが、嚴がニコニコと笑っている。この男を選んだナタが幸せになる、そんな先を。
鎮野でも和やかに、穏やかに暮らす先を見たに違いない。
ナタで先読の力を揮い、鎮野で幸せに暮らす。そんな先を読んだ。択んでも選んでも、その先にあるのは穏やかで和やかな暮らし。
「ジロ。直ぐに鎮野社の祝、禰宜にも会いなさい。認められたら村外れに家を建て、ナタが十二になるまで一人で暮らす。認められなければ認められるまで、鎮野とナタに尽くして待つ。」
答えは『はい』、一択。
「はい、わかりました。」
鎮野社へ行き、鎮野社の面面と会います。会ってナタとの結婚を認めてもらいマス。
「タナも、良いね。」
「はい、紅さま。」
母さんが教えてくれた。手を繋いでイヤじゃなければ抱きしめて、抱きしめられてイヤじゃなければ添い遂げられる。
好きな人を追いかけるより、好きになってくれた人と契る方が幸せになれると。
ジロさんには祝の力とは違う、とても強くて清らな力が眠って居る。いいえ。強くて清らな力に選ばれたか、親から受け継いだのでしょう。
乱雲山で生まれ育ったから、強い力を持って生まれた。きっと、そう。
「家を建てるなら倉のように、床が高い建物にすると良い。村外れだし、いろいろ出るからね。」
ユタが微笑む。
「鎮野の禰宜も祝も、きっと気付くわ。」
ジロが持つ、その力に。
「生まれてくる子を守り、生きるのは難しい。けれどナタ、ジロさんと力を合わせて乗り越えてね。」
「はい、嚴さま」
鎮野と大泉には、他の山と違って祝辺から守られている。だから何も知らない、良く調べもシナイ若いのが突っ走る。
その度に真っ新にしてしまうから、ずっと前から守られていると聞いた。
祝辺に近いけれど守られている。そんな山に入り、熊を狩りながら進む。そんな事を出来るのは国つ神の使わしめ、社憑きかな?
ジロさんは何も従えてイナイけれど、その気になれば何だって。
「どうしたの、嚴。難しい顔をして。」
ユタ。
「話せるなら話して。ほんの少しでも、思うように動けなくても嚴の力になりたい。」
「ありがとう、ユタ。」
ダイスキ。
嚴とユタ、ナタとジロ。二組、四人が心の中で誓った。どんな時も離れず諦めず、幸せにすると。
新天地編でした。再生編に続きます。お楽しみに!




