16-85 助けたのは
山守の長の倅として生まれ、飢えて動けなくなって死んだ。その骸に入った隠は皆、山守に殺された子。
「あの子たち、どうする。」
「攫われた子でしょう?」
「社が引き取る、のかな。」
オビスの中で隠たちが話し合う。
山守の民は嫌いだが、山守の民に攫われた子をドウコウする気はナイ。それより八だ。そろそろ夜明け、朝が来る。
「戻そう。」
「そうだね。」
山守の民が流した血やら、飛んできた腸がベッタリついているケド気にしない。そのままでも獄だ、気付かれる事はナイだろう。
他の守が乗り込んで来る前に八を戻せば、いつかまた使える日が来る。それまで待って確かめよう。生き残りがドウ動くか、どう育つかを。
「誰か、誰か助けて。」
この声は、乙女!
「今すぐ会いに行くよ。」
ジロが駆ける。森の中を全力で、幸せそうな顔をして駆ける。
オビスと別れ、鎮森を南に進んだ。ズンズン進んで見つけた沢を飛び越え、何となく東に進む。
鳥や兎を見つければ狩り、血抜きして腸を抜いたら羽を毟って食べる。人の悲鳴を聞いたのは、狩った兎を捌いていた時。
「お待たせしました。トゥッ!」
熊の前に躍り出たジロが急所を狙い、アッサリ倒す。
「ふぅ。」
爽やかに微笑み、振り返ると・・・・・・。
「そうだよね。」
助けたのは乙女ではなく、男でした。
森が騒ぐから、遠くから確かめようと思って入ったんだ。そしたら熊と目が合って、ゆっくり後退る。
いつもならソレで何とかなるのに転んじゃった。
真っ先に浮かんだのは嚴の顔。
どんな姿になっても帰らなきゃ、戻らなきゃイケナイ。そう思った時に現れたのが、ん。誰だ、この人。
「ありがとうございます。助かりました。鎮野の継ぐ子、ユタです。」
フラフラと立ち上がり、一礼してからニコリ。
「はじめまして。乱雲山、和みのジロです。」
ニコッ。
ユタか、良い名だ。
姉か妹が居るカモしれない。ほんの少しガッカリしたケド、にこやかに握手だ。いや、その前に確かめなければイケナイ。
「どこか痛みますか。」
熊に背を向けず、後退ったのだろう。尻と両の手を土につけていた。だから足を挫いたり、手を痛めてもオカシクない。
「思い切り尻を打ちましたが、この通りです。お気遣い、ありがとうございます。」
落ち着いているなぁ。
きっと乱雲山、乱雲山? 霧雲山には多くの山がある。けれど乱雲山なんて山は、この御山には無い。となると他から。
いやいや、この山は祝辺の守が守っているんだ。守の許し無く入れない。
「乱雲山と仰いましたが、あの? 隠を裁く。」
「はい。その乱雲山です。」




