5-70 絶句
初めに聞いたのは、春の終わり。
山裾の地から戻った、谷河の狩り人が言った。風見の狩り人が、玉置を探っていたと。
次は、木菟から。三鶴の国、木下の村。村人として、風見が潜り込んでいた。
続いて、鷲の目。北山の国で、病を癒すふりをして、風見の者が。
夏に入ってすぐ。
鷲の目が、獣谷の里長から聞いた。風見の舟を、幾度も見るようになったと。
気になり、手始めに熊実へ。奥を調べると、風見の狩り人がいた。後を追い、家を見つける。
熊実に村は無い。隠れ里なら、もっと家があるはず。狩り小屋とも思えない。気になって、聞き耳を立てる。『次は、山裾の地だ。』確かに、そう聞こえた。
狩り人も、木菟も、鷲の目も。山裾の地から戻ると皆、言う。
『風見の者を見た。』『潜り込み、探っていた。』『戦に備えるよう、長を唆していた。』
里長からの、伝え言。『匿うことにした人が、増えた。』『風見は村を襲い、若い男を奪っている。』『助けた人は、言う。風見に全て、奪われたと。』
夏の終わり。
早稲の長ら、三人の仕置が執り行われた。その知らせは、南の地にも届いた。
獣谷の仕置場から、少し離れた所。仕置場が清められた後、風見の狩り人が、家を建てようとした。
人の味を覚えた獣たちが集まり、涎を垂らす。狩り人が追い払おうとしたが、どんどん獣が集まる。
直ぐ、逃げるように風見へ。残された物を調べると、毒が塗られた矢に、刃。石器に、鉄器まであった。
里長が言った。魂迎湖の次は、底なしの湖。山裾の地が、狙われている。
風見の狙いは、山裾の地。手始めに畏れ川を上がり、魂迎湖を崇める小さな村を、次々と。
あちこちから男を攫って、戦場へ。生き残った者を、山裾の地で戦わせるために。
「いくら戦好きな国でも、欲が深すぎる。妖怪が裏で、力添えを?」
「妖怪、というより、幽霊ですね。」
「・・・・・・やまとの者では、ないな。」
「はじめまして。私は化け王。」
ニッコリ。
「墓参り、でしょうか?」
前の祝辺の守が、スッと現れた。
「幽霊と仰いましたが。」
人の守が切り出す。
「アンリエヌ国、第一王女、アン。残念ながら、私の姉です。才が消え、生きる術を奪われ。いろいろあって、体を失いました。魂だけで、生きています。」
「それは、生きているとは。」
「はじまりの一族は皆、バケモノですよ。」