16-84 呪い、発動
とつ守に下ろしてもらい、トコトコ歩いて守犬の小屋へ戻る。
「あら、明るい。でも冷えるわね。」
ブルルッ。
「戻りましょう。」
據據を抱っこして眠れば、きっと朝までグッスリよ。
憑が眠りについた頃、山守の村では。
「逃がさんぞ。」
血潮が顔に、ビシャァとかかる。
「助けてぇぇ。」
グサッと胸を刺され、息絶えた。
呪い種を頭に、それも脳髄に埋め込まれた八は考える事を放棄した。己の意志に関係なく不安を増幅させ、心を操って殺し合わせる事に耐えられなくなって。
「山守の民は、生きていてはイケナイ。」
張って逃げる男の頭に、薪の断面を叩きつける。
「これまで、ごめんなさい。」
石器を首筋に当て、ブスッと切った。
山守の民は山守社から祝が居なくなって、人の長でもある社の司から『もう祝を選ばない』と言われて不安になった。
「泣くな、走れ。」
弟妹の手を引き、幼子が逃げる。
「もう直ぐだ。」
他から攫われ、囚われていた子が走る。
このまま生贄も人柱も選べなければ、いつか己が嬲り殺される日が来る。そうなる前に他から攫わなければ、いつ殺されてもオカシクナイ。
なのに足りない。
兵が居ないから攫えるのは嬰児か幼子。好きに使える若いのは攫えないから、育ちそうなのを攫う。
攫っても攫っても思うようにナラナイ。思うようにナラナイのは嫌だ、いやだ、イヤだ。
「逃がすなぁ!」
他の村でイロイロやからし、山守に移り住んだ破落戸が叫ぶ。
「捕まえろぉ!」
他の村では出来ない事が出来ると聞き、山守を訪れていたケダモノが叫ぶ。
山守で生まれ育った民は、そう多くない。殺し合って死んだから。残っていたのは、その生き残り。
全ての嬰児や幼子が育ったワケでは無い。他から来たのに嬲り殺されたり、言えないような事をされて死んだ。
中には山守を捨て、山越に逃げようとした子も居る。けれど捕まり、生贄や人柱にされる。そうして殺され、隠になった。
「思ったより早かったね。」
オビスが微笑む。
山守の村長は女を見ると、それが幼子でも襲った。襲って孕ませ、どんどん産ませた。
産ませたのに何もせず、泣かずに生き残った子だけ引き取った。
引き取られても食べ物を貰えず、弱って腹が膨れる子。足も膨れて歩けなくなった子。そんな子を生贄や人柱にして言う。
山守のために死ね、と。
「死に絶えてしまえ。」
様子を見に来たカヨが、呪いの言葉を吐き捨てる。
山守の男は皆、女の敵。生かしておけない。
嬰児や幼子は残したが、親と同じケダモノに育つ。だから呪った。呪って呪って、やっと出会ったのがオビス。




