16-80 言い残す事は
人の守は霧雲山の統べる地の、人の長でもある。
霧雲山の統べる地で暮らす全ての人を守りたい。けれど、そのような力は無い。だから思うのだ。
出来るだけの事をして、少しでも多くの人を救おうと。
「聞きました。また気の毒な隠を、戻れない隠を増やしたそうですね。八。」
・・・・・・。
「ひとつ守。」
「そうですね。」
ひとつ守と人の守は、こうなった時の八の扱いを決めていた。
「では、睢。」
「はい。」
これはイケナイ、嫌なヤツだ。
喰隠より酷いヤツ、となると奥津城か。奥津城なんだな。あぁ、終わった。
何だよ。ちょっとイイのを見つけて、化けるまで待ったダケじゃナイか。それなのに。
「それなのに、何だ。」
ゲッ、スミ。忘れてた! ココには心の声が聞こえるのが、ワンサと居るんだったぁぁ。
「思い出したなら話は早い。」
話し合いましょう、ひとつ守。と言ったら何か、変わるだろうか。いや、それよりも。
「心を入れ替え、人のために働きます。」
キリッ。
「八よ、もう遅い。」
そんなぁ。
「觸 (そく)の隣、空いてましたね。」
ととっ、とつ守まで。
ジロに頭をパッカァンとされ、オビスに脳味噌をビチャッとされた八。少しはマシになると思ったのに、残念ながら何一つ変わってイナイ。
「宜しいのですか。山守に、あの隠が仕掛けますよ。」
不安を増幅させ、心を操る闇の力は強い。けれど八は、更に強い力を求めていた。
「山守の民が傷つけば、山守社が狙われます。」
そんな事は無い。
「山守から人が居なくなれば、山守神が御隠れ遊ばす事に。」
山越に分社があるからね。イザとなれば、まぁ何とかなるでしょう。
オビスの狙いは山守の民。呪いの種であるカヨの望みは、山守の民を根絶やしにする事。
山守の村が滅んで困る人はイナイ。祝辺の民だって、もう食べ物を渡さずに済むのだ。大喜びするだろう。
山守神は山神で在らせられる。山守神は生贄も人柱も要らぬと、そう仰せだ。山守の社の司が幾度も伝えている。
なのに山守の民は全く、ちっとも聞き入れない。
山守神を崇めるのは山守の民だけではナイ。
山守社の人も隠も口には出さないが、山守の民が居なくなっても困らないと思っている。
「言い残す事はソレだけか。」
「とつ守、お願いします。山守の民を、あの地で暮らす民を見捨てないでください。」
とつ守はカヨを、呪い種を見守ると決めた。考えを変えたのは鎮森が、鎮森の民が望んでいるから。
カヨは大岩の洞で琴を弾きながら、ティ小のうたを歌っている。それを鎮森の民が、とても楽しみにしているのだ。
カヨの願いを叶えるため、ドウコウする事は無い。無いが、山守から人が居なくなれば多くの人が助かる。そう考えている。




