16-77 うん、うん、そうだ。そうしよう!
山守と山越の民を消す。そう聞いたジロの頭に浮かんだのは、小さな獣を狩る罠の張り方を教えた山越のチビッ子たちの顔。
山越の村長も狩頭も、他の人も山守を嫌っていた。
中には山守に攫われ、山越に逃げ込んだ人も居る。生まれ育った地に戻っても、また攫われてしまう。そう思うと怖くて戻れない。
そう言って泣く人も居た。
「なぁ、オビス。山越は平たい地が少ないんだ。だから食べ物を育てるのも難しくて、それでも諦めずに生きている。」
「そう、なんだ。」
「山守は祝辺からイロイロ貰えるが、山越は何も貰えない。だから田や畑で食べ物を育てながら、狩りや釣りをして暮らしているんだよ。」
「そう、だよね。」
ずっと、ずっと『山越も』って思っていた。けれど山越も山守の民に苦しめられて、それでも諦めずに暮らしている。
でも中には悪い人、居るよね。
うん、待って。
悪い人はドコにだって居るよ。山守から山越に移り住んで、山越の民と力を合わせて暮らしている人だって居ると思う。
うん、そうだよ。
だからさ、山守の民を片付けたら山越を調べよう。山越に行って、みんなで見て聞いて確かめるんだ。
ジロさんが言うんだ、真だよ。
それにさ、もし悪くないのに片付けたら、きっと悲しませちゃう。また会った時、笑って話したいよね。
うん、うん、そうだ。そうしよう!
「山守の民は調べなくても『悪い』って分かるから、ザシュッとサクッと片付けるね。山越の民はシッカリ調べて、『悪い』って思ったのダケ片付ける。」
そう言って胸を張るオビスの頭を優しく撫で、ジロが微笑む。
「そうか。偉いぞ、オビス。」
「ありがとう。」
ちょっぴり照れるオビスを抱き寄せ、額に優しくキスをした。驚いたのだろう。パチクリと瞬きしたが、直ぐにニッコリ笑って抱きつく。
「ジロさん、これから鎮野へ行くんだよね。」
「そうだよ。」
「じゃぁ、地割崖のトコまで送るよ。いい、よね。」
「ありがとう。とっても嬉しいよ。」
地割崖までソコソコ離れている。だからノンビリ歩きながら、イロイロな事を教えた。途中で見つけた獣の狩り方、捌き方。食べ方や皮の使い道などナド。
理由は分からない。けれどオビスは捌いて焼いた肉を食べる度、顔色が良くなった。もしかすると心も満たされなければ、腹も満たされないのカモしれない。
生肉に食らいついていた時は、どれだけ食べても満たされなかった。キノコを食べて痺れたり、腹を下して動けなくなった。
そんな話を聞く度、泣きそうになったが何とか堪える。
「わぁぁ、まん丸だ。」
夜空を見たの、久しぶり。
「キラキラだ。」
手を伸ばしても届かない。
「あっ、流れ星。」
お願いしなきゃ。
焚火の近くに寝転がり、楽しそうに夜空を見るオビスの隣でジロは願う。オビスが心穏やかに、幸せに暮らせますように、と。




