5-69 吉凶
「ただいま、カズ。」
「おかえり・・・・・・ノリ、その仔犬。」
「貰った。親犬から躾けられている、賢い仔だ。」
馬守に犬を返しに行き、仔犬を譲り受けるとは。
「名は、決めたのか?」
「・・・・・・ハル。いや、コハル。」
「キャン。」 ハイ。
尾をブンブン振っている。気に入ったらしい。
「シゲ、コハルだ。」
「ん?・・・・・・仔犬か。どっちだい。」
「女だ。ノリコ、妹だぞ。」
「クゥン、ワン。」 ソウカ、ヨロシク。
「キャン。」 ヨロシク。
「わぁぁ、仔犬だぁ。」
「撫でてもいい?」
「コハルちゃん、よろしくね。」
ノリだけではなく、子らも大喜び。
「ただいまぁ・・・・・・えっ。」
「おかえり。どうした、シン。」
「小さいのがいるなぁと。あっ、そうだ。ヌエのヤツ、やらかしやがった。」
「何を。」
「カツを嗾けて、鳥の谷に入った。」
「見たのか?」
「いや、聞いた。川田のゴロと、茅野のヨシから。」
「なら、違いないな。」
「アイツら、まさか。」
「攫う気だろう。」
「祝には、釜戸社の。」
「伝えたって。でな、どうも・・・・・・。」
「探してるのか、この村を。」
「草谷のヒデが、聞かれたって。熊実で。」
「そうか。」
手を借りようとでも? 頼られても困る。関わらないと、はっきり伝えなければ。
「行ってくる。」
「待て、シゲ。オレも行く。」
シゲとシンは、急いで熊実へ向かった。
カツはタツより、質が悪い。狩り人としての腕も、カンも良い。
タツは騙されやすく、向こう見ずで、愚かだった。カツも騙されやすいが、心が捻じ曲がっている。おまけに、物でも命でも、何でも。掠め奪うことを、酷く好む。
「少しでも早く、カツを見つけないと。」
「ワン、ワワン。」 ソウダネ、マカセテ。
シゲコは、タツと同じくらい、カツを嫌っていた。くりかえし虐げられたから。思い出しただけでも、腸が煮えくり返る。
痛みだけじゃない。食べ物の恨みは恐ろしい。人も犬も、同じだ。
大好きな人たちを、困らせるようなヤツ。噛みついてやる。カプッ、じゃないぞ。ガブッとなっ!