16-74 昔、言われたよ
アンリエヌの民は人も魔物も、どんな姿をしていても守られる。化け王は大王と違い、血統や血筋に拘らない。
だから民は喜んだ。化け王が大王を退け、王座につく事を。
「その角だって牙だって、小さくて可愛らしいと思うぞ。」
オビスと名付けたのは、その角が羊のソレに似ていたから。
「頭には曲がった角、裂けた口からは牙。それも大きいのが二つづつ生えてるんでしょう?」
泣きそうな顔をしてオビスが問う。
「それがドウした。」
そう言って、ジロがニッコリ微笑んだ。
はじまりの一族は才を持つが、生きるためには命が要る。他の生き物から命を吸わなければ生きられない。だから建国し、弱い生き物を取り込んだ。
それがアンリエヌの始まり。
「強い力は弱い者を守るためにある。」
悪いヤツに力を持たせるとロクな事にナラナイ。
「だから子は守られ、慈しまれてスクスク育つ。」
子を虐げるヤツに用はナイ。
「大きくなれ。」
オビスが見開き、ポロポロと涙を流す。
「うわぁぁん。」
泣きながらジロの胸に飛び込んだ。
オビスから離れたジロは駆けながら、白く輝く泉を探した。見つけると直ぐ、森で集めたモヤモヤを水に潜らせる。
水気を切ったらブチブチ千切り、掌でクルクル丸めて積む。
ジロに宝の力は無い。けれど少量だが、はじまりの一族の血が流れているのだ。視力も聴力も人より良いし、脚力も腕力も優れている。
離れた場所から標的を攻撃するくらい、何でも無い。
「ヨゴゼェ。」
八が手を伸ばす。
「ギャッ。」
その手に清め水を打っ掛け、残りを叩きつけた。
大王は才を持たない民を家畜のように扱い、死なない程度に搾取した。
成人後一年以内に子を作らなければ繁殖施設に放り込まれ、三年以内に結果を出さなければ殺処分。
化け王は大王から王座を奪い、民を救おうとした。けれど化け王は短命。次の化け王が直ぐに生まれても、即位できるのは三歳から。
その間に大王が化け王を隔離し、衰弱死させてもオカシクない。
「昔、言われたよ。」
受けた恩を返したければ、いつか苦しむ者を救えと。
「同じようには出来ないがな。」
子を破落戸から守る事なら出来る。
宝の力を持たない、はじまりの一族に救われたダケの生き物に出来る事など知れている。それでも恩返しになるなら、喜んで力になろう。
アンリエヌで学んだ事、感じた事を活かすと決めたのだ。決して諦めない。
闇を消す泉を探したのも、闇を丸めたのもオビスを見捨てられなかったから。
多忙な国王に代わり、世話をしてくれた魔物を思い出したから。助けたいと思ったから。
化け王のように強くなりたい。そう思ったから。
「祝の力は人を、全ての生き物を守るためにある。なのに子を攫おうとするなんて。」
信じられない。
「アァァァ。」
ガタガタ震えながら発する声が、少しづつ小さくなってゆく。
けれど隠、それも祝辺の守。弱っても消えない。




