16-73 いつもの事
闇堕ちしても腸を抜かれても、胸が空っぽになっても隠は隠。厄介なのは強い祝の力でも清められない、死んでも力を保ち続ける闇の使い手。
祝社の継ぐ子の中から選ばれる人の守は、隠の守になることで力を増す。
生まれ持った力が二つなら弱い力が強い力に吸収され、不撓不屈の精神を得ると言われている。
「まだ使える。」
腐っても祝辺の守。
「殺しはシナイ。」
八は悟る。
この生き物は闇堕ちし、隠を越える力を持った。それが何なのか分からないが、どんなに抗っても敵わない。
山守の祝を苦しめた呪いの種より強い『何か』を、その身に宿しているのだと。
祝辺の守なんだ。どうにかして逃げなければ、あの生き物に消えるまで逆らえず、苦しむことになる。
十の守に囲まれるより嫌な事が、喰隠に放り込まれるより嫌な事が起こってしまう。
「話し合おう。」
八が無理に微笑み、闇を伸ばした。
「話し合い、ねぇ。」
八の闇をパチンと弾き、スッと目を細める。
オビスの中に渦巻く憎悪は、山守の民と祝辺の守に向けられている。
不安を増幅させ心を操る力より、もっと強くて大きな力を得たのだ。とつ守なら兎も角、八に勝ち目など無い。
渾身の力を込めたソレが弾かれた事に驚き、見開く。見えない何かに押さえ付けられ、指一本動かせない。
そんな状態で何が出来るのか、頭が割れるまで考えても分からないだろう。
「えっ。」
後ろから飛んできた『何か』が八の頭を貫き、いや『何か』に頭をカチ割られた。
「なっ。」
オビスは何もしてイナイ。
「ヴッ。」
続けて『何か』が、八の胸に穴をあける。
八は隠だ。血も肉もあるが死んでいるので、どんな姿になっても消えない。なのに物凄い顔でオビスを睨み、闇を深めながら伸ばす。
伸ばされたソレが膨れる度、蜂の巣にされるのに。
山守の民から奪うダケでは足りず、鎮森の隠たちを痛めつけた。そうして集めた闇を使って動いても、いつも他の隠に潰される。
なのに諦められない。
「呪いか。」
オビスが呟くと、八から切り離された闇が蠢いた。
「止めろぉ。」
ブワッと闇が深くなり、風通しが良くなった体を揺らしながらオビスに近づこうとする。
真っ黒になった腕を、手を伸ばす。けれど届かない。
他の隠と同じように壊し、使い潰す気だった。使えなくなったら取り込み、その全てを奪う。いつもの事だ。
飛び散った闇が蠢きながら集まり、八に戻ろうとする。けれど力尽きたのか、サラサラと崩れて消えた。
消える度、闇に引き摺られるのに八は笑う。
「その子から離れろ。」
ジロが戻ってきた。
「どうして・・・・・・。こんな姿なのに。」
オビスが叫ぶように言い、唇を噛む。
「どんな姿をしていても幼子だ。守るさ。」
化け王城で元の体に戻った時、酷く驚いた。生まれて初めて見る魔物は皆、個性的だったから。




