16-71 隠の血となれ、肉となれ
キュルルルルゥゥ。ジュルリ。
「このままじゃ食べられないよ。だからね、枯れ枝を集めて火を熾そう。」
コクン。
熊肉には身体を温める効果や、高い滋養効果がある。また美肌効果があるといわれるコラーゲンが含まれ、特に珍重されるのが掌。
「いただきます。」
パクリ。モグモグ、ごっくん。
「美味しい。」
いつも焼かずに、そのまま食らいついていた。
知らなかったよ。焼くと、こんなに美味しくなるんだ。美味しくて美味しくて止らない。
熊肉をペロリと平らげ、満足げに腹を摩る。お腹イッパイになって眠くなったのか、目をショボショボさせはじめた。
「おじさん、人?」
「そうだよ。」
「何か違う気がする。だからね、離れて。」
眠そうにしていたのに、どうしたのだろう。
「助けてくれて、ありがとう。もう直ぐ来るよ。だからアッチ、アッチへ逃げて。」
幼子は口減らしのため、山守神に捧げられた。その骸に闇堕ちした山守の隠が入り妖怪化。
鎮森に入ったのは山守の民と戦い、勝つため。食べ物を探し、力を付けるため。
「助けてくれて、熊肉を食べさせてくれてありがとう。」
食べても食べても満たされず、思うように動けない。そんな時、熊に襲われかけた。
このまま動かなければ、また死ねば死ねるかな。そう思った時、現れたのがジロ。
「とっても嬉しかったよ。」
ボロボロ泣きながら微笑む。
山守の民は頭がオカシイ。他の里や村に押し入って攫うのは、いつも十か十一の幼子。
攫われ子は男も女も朝、早くから夜、遅くまで働かされる。食べ物を貰えるのは、良くて日に一度。それも薄い粥を、小さな椀に少しだけ。
「オビス?」
「祝辺の守はね、強い力を持つ人を攫うんだ。祝の力を使って、逆らえなくするんだ。だから逃げて。」
「・・・・・・分かった。また会おうな、オビス。」
「うん、またね。」
ジロが立ち去ったのを確かめてから、反対方向へ駆け出した。少しでもジロを祝辺の守から遠ざけるために、囮になるツモリで。
「闇堕ちか。」
祝社の問題児、八がニヤリ。
「祝辺の真名呼びだな。」
祝辺の守は知っている。山守が何をしているのか、知っていて何もしない。だから敵だ。
霧雲山の統べる地の長は人の守。それを支え、霧雲山を守るのは隠の守。そう聞いた。なのに祝辺の守は動こうとしない。
人も隠も。
「好い目をしている。」
見るな、気持ち悪い。
「どれだけ食ったら、そんな姿になるんだ。」
そんな姿って。
「頭には曲がった角、裂けた口からは牙。それも大きいのが二つづつ。」
エッ。




