16-70 今、会いに行くよ
チビッ子に懐かれて、頼られて長居しちゃった。
けれど祝辺と山守、山越のアレコレに鎮森と隠の関係。他にもイロイロ知ることが出来た。
「キャァッ。」
この声は!
「今、会いに行くよ。」
ジロが物凄い勢いで駆け出した。
山越から南へ。山越と山守社の間に、とても大きな石があった。気になったケド、今はソレどころではナイ。
「待っていて、乙女。」
乙女とは限らない。
「くぅまぁぁ。」
大きな熊が何かを攻撃しようとしている。
「とぅっ。」
走りながら腰を落とし、止まると同時に飛び蹴り。
熊の首がグワンとなり、ドダッと倒れた。シュタッと着地し、そのまま跳ねてニヤリ。
「エイッ。」
熊の頭部を踏み潰し、確実に仕留めた。
「怪我、じゃない。どこか痛いトコロはありませんか。」
幼子、それも男だった。
男に用はナイと去れば、きっとジロの印象が悪くなる。もし運命の相手の関係者なら。そうでなくても、幼子を一人残して立ち去れない。
「うわぁぁぁん。」
チビッ子、号泣。
「そうだな、怖かったな。」
慰めながら幼子を抱きしめ、背をポンポンと優しく叩いた。すると安心したのか、鼻水も出して大号泣。
汚いトカ煩いトカ思っても、口にも顔にも出しません。
幼子を抱きしめたまま頭を撫で、微笑むジロは思う。
サッサと血抜きして解体しなければ、どんどん美味しくなくなる。何とかしたいがドウにもならない。大泣きする子を突き放せないと。
「名を教えておくれ。」
・・・・・・。
「どう呼べば良い?」
「知らない人に教えちゃイケナイって、言われてる。」
そう言ってキュッと、唇を結んだ。
「そうだな。なら、オビスと呼ぶよ。良いかな。」
「うん。」
熊の処理をしながらオビスと話し、打ち解けたトコロでイロイロ聞き出した。
詳しい事は分からないが、言い付けを破って家を飛び出したラシイ。
戻りたいが戻れない。そう言って泣くオビスに、どう声を掛ければ良いのか思い悩む。
けれど考えれば考えるホドこんがらがり、『伝わらなければソレまでだ』と開き直った。
「言い付けは守らなきゃイケナイぞ、オビス。」
と言いながら、胸を押さえるジロ。
「おじさん?」
・・・・・・十七歳です!
言い付けを破って外に出た。家に帰りたいケド、どうすれば戻れるのか分からない。そう聞いて思った。山守の民とは距離を置き、警戒を強める必要があると。
諸悪の根源は山守の民にある。
人が足りないから攫う、生贄が足りないから攫う、人柱が足りないから攫う。
全く理解できない。何だソレ。
「何でもないよ。」
「そう、なの?」




