16-69 目の前が真っ暗になった
全切除されてから数日後、栓を抜いたら尿が出た。
三月の間、縛られたまま垂れ流し。
「やっと、やっと出られる。」
ワケではナイ。
「あっ。」
チョン切り台から転げ落ち、ベタッと倒れる。
垂れ流し期間中、食べさせてもらえたのは粥だけ。骨と皮になった、とは言えない。けれど痩せたのは確か。
これまで有ったモノが無くなり、何となく歩き難い。
これからは『しゃがんで』用を足すと言われ、目の前が真っ暗になった。
「どっ、どこへ。」
狩り人に腕を取られ、そのままズルズル引き摺られた。
「嫌だ。」
と言っても聞いてもらえない。
山越分社の離れから出され、分社に放り込まれた。のだが、どうもオカシイ。分社に柵など無かったし、巫は好きに出歩いていた。
なのにドウして。
「出せ。」
叫びたくても、暴れたくても力が出ない。
「ここから出せ。」
柵を壊そうと体当たりしても、フニャンとして倒れるダケ。
「大きいのも小さいのも、ソコにしろ。」
獄の隅に小さな甕が一つ、置いてあった。
「壊すなよ。」
嫌だ、ここから出してくれ。ずっと、ずっと死ぬまでココに? どうして。
「うわぁ、ヒドイ。」
高みの見物と洒落込んでいたトモが、思わず呟く。
「女っ。」
切除されたのに、もう無いのに腰を振る。
「ハッハッハッハッ。」
顔を赤くして涎を垂らす。
「気持ち悪っ。」
分社という名の獄に入れられ、お飾りの覡になったソウは無力。去勢、それも全切除されたのに欲情にかられて腰を振る。
怪力の持ち主だったが、もう思うように暴れられない。
「盛りがついた獣ね。」
猿や狸のように、朝までキーキー騒ぐのは止めなさい。煩いから。
ソウは裂いた獣という意味で、名付けたのは実父。
ソウの母は出産後、出血多量で死亡。後添えを迎えず、男で一つで育てたが二年前、心労がたたり死亡。
頼る親族、縁の者も居ないソウは村外れの獄に入れられた。
多くの女を苦しめ、嬰児を裂き殺したのだ。当然である。
「育て方を間違えたか。」
母なし子だ。寂しい思い、辛い思いをさせただろう。
「そんな事ないわ。」
いつだって、あの子の事を考えていた。
「ありがとう。」
隠になった両親が泣いている。ソウの姿を見て、サメザメと泣いている。
・・・・・・ごめんなさい。
「母さんも、同じだったのかな。」
リツが嫌いだった。リツを見る父さんの目が、とても優しかったから。




