16-68 しっかり務めを果たしなさい
山守社に祝は居ないが、祝の力を持つ人は居る。
事情を説明すれば適切に処理してくれるだろう。
カンカンカン。
「こんなモンか。」
「そうだな。」
山越分社をソウの独房にする事に、反対する者は一人も居なかった。
もともと山越分社はトモを、手が付けられないワルを大人しくさせるために建てられたモノ。
他の分社は違うだろうが、山越分社の巫覡に特別な力など必要ない。
「ドウなってんのよ。」
隠になったトモが叫ぶ。
「何なのよ、アレ。」
分社の離れを指差し、腹を立てる。
トモは己に祝の力は無く、口寄せも出来ないと気付いていた。けれど『神から崖に分社を建てるよう、御告げがあった』のは真。
山守の民が山越に来る度、村の男に捨てさせた。それは山越を山守から守るため。
何を言っても聞いてもらえず、悔しい思いをしたが恨んではイナイ。
「見えない、聞こえないのは諦める。でもね。」
ソウも見えないし聞こえないが、トモが居るのに気が付いた。
「縛られているのに腰を浮かして、『やらせろ』って叫ぶのよ。」
相手は隠だしチョン切られているのだ。どう前向きに考えても交われない。
「父さんに会いたくて母さんを探したけど、ドコにも居ないし。」
天寿を全うしたトミは根の国へ行き、隠になって戻った。戻って直ぐにトモの見守りを開始。
十数年後、隠になったトモを連れ根の国へ。
「『しっかり務めを果たしなさい』ってアレ、何だったの。」
生まれ育った地に戻されたのだ。何とかナッタのだろう。
「ってか、何で出られないのよ!」
隠になったトモは山越から出られない。マツとリツを守るため、トミが本気をだしたから。
「イタッ。突くな。」
山越烏の御隠居がキツツキのようにトモの頭を突く。
うん、楽しそうだ。
「おじさん、もう行っちゃうの?」
弟クン、涙目。
「また会える?」
お兄チャンも涙目。
ジロは恋に恋する十七歳。謎ダンスを踊るけど、おじさん呼びは止めてあげて。
「小さい獣でも獣は獣。仕留めるまで気を抜くな。」
兄弟がコクンと頷く。
「母さん、父さんの言い付けを守るんだぞ。」
「ハイッ。」
コウとツウが聞いたら、きっと涙を流して喜ぶだろう。立派になったネ。
ジロは山越のチビッ子に、小さな獣を狩る罠の張り方を教えた。
平地が少ない山越で、食べ物を育てるのは難しい。だから『狩を』と考えて。
「ジロさま。いろいろ、ありがとうございました。」
村長に感謝され、チョッピリ照れる。




