16-66 片付けますか
山越は思った以上に遠かった。
それにしても何だ、あの森。気の所為なんかじゃない、木が動いたんだ。根がボコッとしたり仰け反ったりして。
見たぞ、この目で。
鎮森。
呪い種が暮らしているトカ、山守に殺された人の隠が囚われているトカ、祝辺の守にナレナカッタ隠が暮らしているトカ何とか。
それら全てが事実なら、どうして山守の民が生きているんだ。
「おんなぁぁ。」
素っ裸でブラブラ、いやブンブンさせながら全力疾走してくる変態が一人。
「あぁ、アレか。」
去勢予定者は。
熊肉を村長の家の前にドンと置き、民を集めて分け与えた。
それを嬉しそうに持ち帰るのを見て、人は他の命を頂く事で、その命を長らえているんだと思い知る。
今頃、家族みんなで食事の支度をしているんだろうな。熊鍋をフゥフゥしながら美味しく食べ、ゆっくり休んで明日への活力を蓄える。
健康は活力の源だからネ。
「さて、片付けますか。」
幸せな時間を打ち壊す邪魔者には、直ぐに消えてもらいましょう。
「おんなぁぁ。」
母さん似だけど男だよ。
涎を垂らしながら卑猥に腰を振り、一物をブルンブルンさせながら近づく男の名はソウ。
裂いた獣、という意味らしい。
ジロは心の中で『きたないモン見せるなよ』と毒づきながら、徐に柄を握った。
「ヤラせっ。」
ソウが泡を吹き、ガクッと倒れた。
化け王から贈られたのは切れ味バツグン、身幅の広い諸刃の短剣。峰打ち出来ない。
だから柄頭で鳩尾を一撃し、気絶させてから処分する事にしたのだ。
「さて、ドコで切ろうか。」
性癖は死ぬまで変わらない。だから一番、確実な方法を選ぶ。
「切るとは、その・・・・・・。」
「タマと根です。」
去勢してから放たなければ犠牲者が増えるダケ。だから迷わず、速やかに処理しましょう。一番、確実な方法ですヨ。
「切り取ってから歩けるようになるまで、早ければ四月でしょうか。それまで子が近づけない村外れ。風通しが良く薄暗い、獄か洞があれば教えてください。」
山越分社には今、誰も居ない。
だから気絶したソウを放り込み、去勢手術する事にした。
「この建物、思い切って獄にしませんか。」
山越分社と呼ばれているが、神を祀っているワケでは無い。山越を山守の民から守るため、谷に落とす手続きをする場所。
だから作り変えても問題ない、よね?
「獄。」
良い考えですネ。
反対意見が出なかった理由の一つに、ソウの異常性が挙げられる。
兎に角、手が早いのだ。悪さしないよう木に縛り付けても、女の姿を見ると目の色を変えて大暴れ。腰を振って縄を切ってしまう。
話を聞いたジロはピンときた。大勢の前で伝えるとマズイので、村長を呼んで伝える。ソウは何かに呪われているカモしれない、と。




