16-65 山越分社の巫は
「山守の民は、どうして山越に留まるのですか。」
ジロが問う。
「山越に来る山守の民はトモに、巫に殺されました。死んだ山守の民は隠になり、分社に押しかけます。けれどトモには見る目、聞く耳もありません。」
そう、なんだ。
「山越烏が群がり、谷へ。きっと隠を落としていたのでしょう。」
根の国へ。
山越分社の巫は我慢も努力も出来ず、短気で攻撃的な性格をしていなければ務まらない。
話を聞く限り、そうなる。
トモが倒れて直ぐ、次の巫を誰にするか話し合われた。けれど適任が見つからない。
いや一人、居るには居るがトモ以上の問題児。
障礙にもイロイロあるが、中でも厄介なのが性障礙。女を見ると年齢に関係なく欲情にかられ、腰を振る性嗜好異常者をドウ扱う。
良い案が浮かばず、グズグズしている間に悲劇が起きた。
嬰児の足を開いて突っ込み、真っ二つに裂き殺したのだ。
「その人で無し、タマと根を切れば良いのでは?」
・・・・・・ハッ。
「そうだ、そうしよう。」
兄弟の父と狩頭が声を合わせ、見合って頷く。
斯くして、社会的不適応者の処分が決定。
流れるように誰が執刀するか、という話になった。けれど怪力の持ち主を拘束し、適切に処置できる人など居ない。
「ジロさま、お願いします。」
エッ。
「この通り。」
男性の去勢術なら知っている。処刑法の一つだったカナ? アンリエヌで読んだよ。
先ず初めに、腹と両腿の付け根にグルグルきつく、布を巻く。次に膝を折って座らせ、股を開いた状態で両の手足を固定。素早く切除する。
尿道が閉じないように木の枝を細く削った物を差し込み、キレイに洗った麻布の襤褸を患部にペタリ。乾く前に水を掛け、常に湿った状態を保つ。
栓を抜いて尿が出たら三月、穴を開けた簀子に縛ったまま寝かせて垂れ流し。少し動いたダケで痛むらしい。
尿が出れば助かり出なければ死ぬが、成功率は高いと書いてあった。
「引き受けるかドウかは、熊を運んでから決めます。」
血抜きと解体は済ませたが、この量である。少しでも早く届けて、美味しく食べなければ。
「そうですね。けれど、宜しいのですか。」
「はい、どうぞ。」
鎮野へは、他の獣を狩るので。
親熊一頭、小熊二頭分の肉である。山越にどれだけ人が居るのか分からないが、お腹いっぱい食べられるだろう。
幼い兄弟には毛皮を持たせ、大人三人で肉を運ぶ。
骨は穴を掘って埋めた。腸は犬に食わせ、幼子の護衛を命じた。ワンと吠えたから理解した、と思う。
「母さん、ただいま。」
山守の民に食料を奪われ、森で見つけた食べ物を幼子に食べさせた。そうして動けなくなる。
「強いおじさんがね、熊を狩ってくれたんだ。みんなで分けても、お腹いっぱい食べられるよ。」
思った以上に人口が多かったので、お腹イッパイは難しいカモしれない。
「そう。」
力なく微笑み、幼子の頭を撫でる。




