16-63 迎えに来たよ
助けたのが男でも女でも、幼くても年老いていても関係ない。
「どういたしまして。」
運命の相手との運命の出会いではナカッタが、幼子の明るい未来を守る事は出来た。それでヨシとしよう。
「おじさん、お願い。兄ぃも助けて。」
お、オジサンなのか。十七歳は。
「兄さんは、どこかな。」
一瞬フラッとしたが『シッカリしろ』と、心の中で己を応援。
「アッチです。」
幼子を抱き上げ、指し示す方へ駆ける。その先に見えたのは後ろ足で立ち、右の前足を上げる熊だった。
素早く弟クンを大木の枝に乗せ、掴まらせてから兄の救出に向かう。
その手に握ったのは剣ではなく、走りながらバキッと折った太い枝。
「グヲォォ。」
母熊の左脇腹に蹴りを入れ、仰向けに倒すと同時に止めを刺した。
簓のように端が細かく割れた枝で。
「オォォ。」
小熊が二頭、ジロ目掛けて駆けてきた。
「あぁ、そうか。」
タンッと飛びあがり、一頭の頭を蹴り潰す。
「悪く思うな。」
そう言って、もう一頭の頭も潰した。
もう少し離れていたら、幼子二人を抱えて逃げられたのに。
小熊から母だけでなく、命も奪ってしまった。小熊が逃げてくれれば。いや、もう止そう。
この子の兄は足を痛めている。
骨がポキッとキレイに折れていたら引っ張って、添え木をして固定する。けれど砕けていたら、可哀想だがドウにもならない。
「あぁ、そのまま。足に触れるよ。」
「はい。」
あの破落戸から逃げようとしたのか、子連れの母熊から弟を守ろうとしたのか。何れにせよ足を捻って痛めてしまったのだろう。
「折れてはイナイ。痛みが消えるまで動かさず、家で大人しく過ごしなさい。」
「はい、そうします。」
「少し待っていなさい。弟を連れて戻るから。」
「ハイッ。」
お兄チャンは知らない。弟が山守の破落戸、二人に攫われた事を。抱えられた状態で救われ、目の前で死ぬのを見た事も。
「迎えに来たよ。」
木の枝に掴まり、ジッとしていた弟クンに声を掛けた。
「あいっ。」
チョッピリ涙目。
イキナリ大木の枝に乗せられ、シッカリと掴まるように言われた。頷くとタッと駆け出し、見えなくなる。
その直ぐ後だ。熊の声が、大きな声が聞こえたのは。
「さぁ。」
弟クンをユックリ下ろし、優しく背をポンと叩く。
「兄ぃぃ。」
弟クンが泣きながら、お兄チャンに駆け寄った。
「怖かったよぉ。」
オンオン泣く兄弟から少し離れ、枝ぶりの良い大木を探す。
急いで血抜きしなければ、腸を抜かなければ美味しく食べられないから。




