表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
新天地編
1405/1604

16-60 生きろ


アンリエヌ語の読み書きは出来ても、会話はテンでダメ。そんなジロの教育係になったのは、ブランからアレコレ教わったネージュ。


初めはアルバが担当したが、たった三日で止まり木から落ちる。規則正しい生活を送るふくろうに、急な呼び出しや夜勤はキツカッタ。






「笑顔は国際旅券!」


そうだね。


「交際も交渉も最初が肝心。」


ネージュから教わったのは外交の基本。


「頑張りマス。」




少し離れた場所で見守っていたブランが、ほんの少し見開いてから飛び立った。向かうのは乱雲山。合繋谷あつぐだにを越え、滝山から氷皐山きよさわやまを抜ける。


その姿を消して。






「グゥゥ。」 ナニカイル。



春でも秋でも、特に夏は子連れ熊に近づいてはイケナイ。親熊は小熊を守ろうと、必要以上に気が立っているから。




山守と祝辺はふりべが隔てられるまで、多くの人が熊に襲われて死んだ。それら全て、山守神の御怒りだと決めつけたのは山守のたみ



地が割れた事で頂が山守から祝辺に移り、鎮森しづめもりとらわれるようになる。その多くが生贄いけにえ人柱ひとばしらにされて死んだ、祝の力を持たない人たち。


隠になっても山守を憎み続けている。




「グヲォォ。」



滑山なめらやま坦山たいらやまが崩れ、霧山に鳴山おやま固山こやまも離れた。地割崖から上は守られている。けれど下は、低い地は違う。




「逃げろ。」


弟と森に入った兄が、弟の肩をつかんで言った。


「でも、兄さんは。」


足をくじいて動けない。


「言い付けを破ったんだ。でもな、生きろ。」


弟がブン、ブンと頭を横に振る。




子連れの熊は、母熊は気が立っている。もし見つかれば襲われ、生きたまま食われるだろう。


言い付けを破り、こっそり抜け出したおのは良い。けれど何も知らず、ついてきた弟は死なせられない。




「山越に戻れ。」


「でも、でも。」




幾度いくたびも戻れと、そう言われたのに戻らなかった。そうしなければ、もう兄に会えない。そんな気がしたから。


どんなに叱られても、叩かれても離れたくない。だから聞かなかった。




「この辺りには獣が多い。だから犬を連れた狩り人が、きっと近くに居る。だから誰か見つけて、助けを求めるんだ。頼めるか?」


ウルウル。


「一人でも転ばずに、まっすぐ走れるな。」


コクン。


「行け。」




ズビッと鼻をすすり、幼子おさなごが立ち上がった。それからこぶしで涙をぬぐい、タッと駆け出す。


その後ろ姿を見つめ、力なく微笑んだ。




「生きろ。」


幸せに暮らせ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ