16-59 その踊り、強烈
「どうしよう。」
アチコチから見られている。
「はぁ。」
降ってきた眼球に埋もれた、あの日の事を思い出すよ。
「手でも振るか。」
開き直ったジロが笑顔で手を振り、クルンと回って踊り出す。
披露したのはカーに『何かの儀式か』と問われた、あの謎ダンス。
「何だ、アレは。」
「ティ小のうたに合わない!」
「今すぐ止めさせよう。」
ジロの鼻歌と謎ダンス、不評判。
多鹿のカヨもティ小のうたも、鎮森の民に大人気。琴を習う隠が増え、風が涼やかな音色を運ぶ。
「♪手を上げフリフリ、もう一方もフリフリ。お尻フリフリ、膝を曲げピョォン♪」
暗かった森に明るい光が差し込み、噴き出す闇も心なしか薄くなる。それら全てカヨが歌う、ティ小のうたの御蔭。
なのにイロイロ台無し。
「いちニッさんシッ、にいニッさんシッ。さんニッさんシッ、よんニッさんシッ。」
腕を上げたり腰を振ったり、尻を突き出して踊る。
「ふぅ。」
コリコリに凝った肩が軽くなったジロを、信じられないモノを見るような目で見つめる隠たち。
「おはよう。気持ちの良い朝ですね。」
ニコッ。
鎮森の民には見えるが、ジロには何も見えない。見えないけれど居る。だから笑顔で挨拶したのに、隠たちが腰を抜かした。
「大きな木の枝に腰掛け、抱きついて眠ると凝るんだよねぇ。」
もう二度とアンリエヌの土を踏む事はない。当然、極上寝具で休む事も無い。だから硬い寝具でも、木の上でも眠るように訓練した。
「ほら、土の上だと齧られるでしょう?」
猪とか狐とか狸とか、熊とかに。
「熊が木に登るって話、聞いたんだけど。」
・・・・・・。
「そうだよネ。」
うふふ。
隠たち揃ってガクガク、ぶるぶる。
急に現れた見る目も耳も持たない男が、話が全く通じないのに話し掛けてくる。答えても話にならない。となれば怖がられ、怯えられるのは当然。
ジロは見えなくても聞こえなくても、相手には見えるし聞こえるならソレで良いと考えた。だから朗らかに笑い、優しい声で語りかける。
何も知らず。
「さぁて、そろそろ行くか。」
ブランに教わった通り、真っ直ぐ歩いて鎮森を抜けた。けれど何をドウ話せば良いのかサッパリ分からず、森の中をグルグル歩き回る。
で、気付けば日暮れ。
急いで大木に登り、寝床を確保。幹に抱きつき作戦を練るも、たった五分で寝落ち。『疲れていたんだ』と開き直り、爽やか挨拶作戦を実行。
「訛っちゃったカナ。」
いやイヤ違うぞ、ジロ。
「長かったからなぁ。」




