16-57 戻って来たんだ!
少量とはいえ人の体に、はじまりの一族の血が入ったのだ。思うように動けるまで一年、力加減が出来るまで一年。
合わせて二年経過。
「カー様、王子様みたい。」
第五王子だよ、先代大王の。
「キレイな瞳。こう、スゥっと吸い込まれそう。」
口説いているのか?
ジロは鳥の谷ではなく、霧雲山を転移先に選んだ。
理由は祝辺の守に知られる事なく、安全に入山できるから。鳥の谷を管理するのは釜戸社。その気になれば、いつでも好きな時に行けるから。
霧雲山を見て回ろうと思う。そう聞いてカーは実用的で美しく、丈夫な短剣を用意した。
餞別の品として、ジロに渡すために。
「今まで、ありがとう。お世話になりました。」
涙ぐみながら微笑むジロ。
「達者でな。」
「はい。」
淡い光に包まれ、フワフワした。ゆっくり瞬きし、目を慣らす。
赤い目をした白い鷲と目が合い、パチクリ。それから直ぐ、パァっと花の咲いたような顔になった。
「ブランさま。というコトは戻って来たんだ! やまとに。」
生まれ育った乱雲山に、家族がいる和み村に戻ったワケでは無い。それでも胸が熱くなる。
「ジロ。これから、どの山へ行く。」
目を潤ませるジロに、ブランが優しく問いかけた。「どの・・・・・・。あぁ、そうか。」
中の東国、霧雲山の統べる地。その真中に聳えるのが霧雲山系。最高峰は山守だが、その頂を守るのは祝辺。
山守と祝辺は分断され、高い崖の一部が広い滝になっている。
エンが暮らしていた洞は霧雲山系にあるが、どの山にあるのか知らされてイナイ。
洞の外は切り立った崖で、四つ足でなければ近づけないと言われたダケ。
「ブラン様。叶うなら高隆崖の上、鎮野か平良で暮らしたいと思います。」
「ホウ。」
チラッと話を聞いた時から、ずっと見たかったんだ。合繋谷に流れる滝を。平良から見えるのは左牙滝、鎮野から見えるのは右牙滝。
牙に譬えられるんだから白くて大きくて、虹がかかってキラキラ輝いているんだろう。近づきすぎるとアブナイから、離れて眺めるよ。
「近づけぬぞ。」
「エッ。」
高盛崖の上は風の流れが複雑で、四つ足でも身を低くしなければ崖下へ真っ逆さま。根の国へ直行。
素敵な出会いトカ運命の出会いを期待しているようだが、あの崖に居るのは隠か妖怪。人とドウコウなるとは思えない。
「そう、なんだ。」
ガッカリ。
「平良は祝辺の守に仕える烏が暮らす地。祝辺は鎮野と大泉に手を出せない、強い山だ。心穏やかに暮らすなら平良より、鎮野が良かろう。」
ブランの赤い目がキラリと光った。
「はい、決めました。鎮野で幸せに暮らします。」
ニコッ。




