16-56 誘惑に負けません
ジロは人、はじまりの一族ではナイ。なのでジロの体にカーも入っている。執務を熟すのはジロが眠っている間。
短時間で済ませるが、稀に日付が変わる事も。
「うぅん、眠い。」
うつらうつら、ポフッ。
アンリエヌは他国より何やカンや進み過ぎて、同じ惑星とは思えないホド違う。
はじまりの一族が治める国だ。当然と言えば当然だが、このままでは困ったコトになるゾ。
「羽毛布団は、その気になれば作れるだろう。しかし、どう考えても。」
「衝撃吸収材だっけぇ。」
ムニャムニャ。
エンが暮らしていた洞は、今も霧雲山系の崖にある。
鳥の谷の洞より狭いが医療設備は充実。化け王を除けば、特命を受けた臣にしか出入り出来ない。
はじまりの一族でも床擦れする。
だからカーはエンのため、低反発素材の研究を開始。他にもアレコレ開発し、その最期を看取った。
「寝台を硬くするか。」
このまま戻せば、きっと寝不足になる。
「起きなさい、ジロ。」
「うぅん、もうちょっと。」
スピィィ。
起きないなら仕方がない。
二度寝したジロに代わり、表に出たカーは身支度して執務室へ向かう。
「カーさま、おはようございます。」
「おはよう、アルバ。」
アルバは金目白毛の梟の魔物で、魔物文官では一番の古株。『アンリエヌの生き字引』と呼ばれている。好きな食べ物は腸詰。趣味は読書、特技は情報処理。
座右の銘は『夜更かしは美容の敵』。
幼少期は夜行性だったが不眠症になり、夜昼逆転生活を送るようになった。とはいえ明るいのは苦手。特別に用意されたのは、暗くて風通しが良い執務室。
モチロン個室デス。
「本日の朝食はチーズトースト、温野菜サラダ、コーンポタージュスープです。」
はじまりの一族は命を吸って生きている。けれど今はジロの体に入っているので、三食しっかり食べます。
「ありがとう。」
良く寝た・・・・・・って、瓶詰生活に逆戻り? 聞いてナイよ。
もしもぉし。聞こえますか、カー様。支えナシでも歩けるよう、今日も張り切って訓練します。だからソロソロ、宜しいでしょうか。
困った、ドウしよう。でもソウだなぁ。
良く考え、いや考えなくてもフカフカな寝具で眠れるのはアンリエヌだけ。やまとじゃ考えられない。
「ほう、気が付いたか。」
「グッスリと眠っていたダケだよ。」
「そうでは無い。寝具の話だ。」
思うように動けるようになるまで不老となり、化け王城内で生活する事になった。なのに睡魔に負けて二度寝。
シッカリしろ、ジロ。運命の相手と運命の出会いをして、愛し愛されて幸せに暮らすんだろう。父さんと同じは無理でも、今より強くならなきゃイケナイ。
「もう、誘惑に負けません。」
キリッ。
 




