16-51 何をドウしたって入り込めない
山守の民に攫われたと、そう思っていた。違うと気付いたのは力を、この力を強める術を試された時。
死んで初めて、真の敵を知る。
「剛、聞いたか。」
・・・・・・。
「なぁ。」
跳に肩をポンポン叩かれ、やっと気付く。
「あぁ、久しぶり。変わりナイか。」
「この通り! で、どうした。何があった。」
剛も跳も山守に攫われた後、祝辺の守に攫われ被験者となる。継ぐ子じゃないのに継ぐ子として葬られ、霧雲山から出られなくなった。
真実を知ったのは死後。
二人を攫ったのは二十代、祝辺の守。名は觸。感情や能力など、形のないモノを増幅させる闇の力を生まれ持つ。
山守の民に矯正教育を施していたが、その能力を悪用した罪で収監中。
「山守社の北に住みついた、山守の呪い種。」
「あぁ、知ってる。琴を弾きながら歌う小さいの。」
「ソレだな。」
その気になれば觸が放り込まれた、祝辺の獄に忍び込める。そう考え近づこうとしたが、他の隠や木に阻まれてしまう。
觸は継ぐ子が持つ祝の力を変えずに大きくし、どこまで耐えられるか試した。その罪を獄の中で償っている。というコトになっているが、どうも違うらしい。
「気持ちは分かるが。」
「難しいか。」
「あの小さいの、森に守られている。とつ守も認め、見守っている闇だ。」
ゲッ。
「そんな顔するな。それはソウと剛、どちらの獄に忍び込もうとした。」
「どちらって、祝辺の獄は一つじゃ。」
「祝社がパッと見るより、ずっと大きいのは知っているな。」
「あぁ。」
「その下。人の世と隠の世の間にある細い裂け目に、隠の守が作った小さな獄があるらしい。」
十九代、祝辺の守。
往は人の世と隠の世の間にある、僅かな切れ目を広げる力を生まれ持つ。霧雲山系を外敵から守るため、遮り断っているので社から出られない。
因みに獄を作ったのは十八代、祝辺の守。
結は磐を操る力を生まれ持ち、霧雲山系崩壊を防いでいるので社から出られない。
往も結も祝社から出られないダケ。
社の中なら好きに動き回れるし、ノンビリ過ごしていても差し支えない。だから仲良く織物をしたり、縫物をしたりして過ごしている。
「そんなトコロに入れられているなら、何をドウしたって入り込めないじゃナイか。」
「そう嘆くな。聞いた話だが何れ、祝辺に強い力を持つ幼子が来る。その子は人だが使わしめを従えていて、觸を祓い清めるとか何とか。」
「それは、いつ。いつ現れる。」
「隠の守、タカとキヨにも分からないと聞いた。」
先見の力を生まれ持つタカ、先読の力を生まれ持つキヨに分からない事だ。己らに分かるワケがない。
「・・・・・・そうか。」
「言ってもドウにもナラナイが。」
「アレに壊され、失った力があればなぁ。」
觸の思いつきは多くの子を苦しめ、殺した。祝の力を壊され失い、生まれ育った地へ戻れた子も居るが少ない。
残りは死んでも囚われ、使い隠として働いている。