16-50 同じ先を見た
鎮野の先見さま。
生まれて直ぐに親から離され、御婆さまと呼ばれる祝女に育てられる。御婆さまには退いた社の司、禰宜、祝が就く。
そう聞いていたから守られ過ぎて、とても静かな人だと思っていた。
幼い時に契る子を己で決め、その子と先を見据えて過ごすなんてコト、私には。
「鎮野の嚴です。」
ハッ、いけない。
「大泉から来ました、ナタです。」
ペコリ。
鎮森に入る事が多いユタは、木や隠からティ小のうたを教えてもらった。
琴を弾きながら歌うカヨの声を聴きたいが、地割崖を下らなければ山守へは行けない。足腰が強い樵や狩り人でも命懸け。
日に日に強くなっているとはいえ、ユタは他の子より弱い。行って戻れたとしてもヘロヘロで、幾日も寝込むだろう。
だから夜、鎮野で木を通して聴く。
「楽しそうですね。」
山守社の北に在る大岩で、呪いの種が暮らしている。多鹿の織り人だったカヨの狙いは、山守と山越の民。
「とつ守が認めていますし、鎮森の民が見守っています。だから皆、飛んだり跳ねたりして盛り上がるんですって。」
目を輝かせながら語るユタ。そんなユタをウットリ見つめる嚴。・・・・・・アツイぜ。
嚴が見た先は、ナタが読んだ先と違っていた。
けれど見る度に変わるので、ハッキリした事は分からない。そう聞いてホッとしたが一つだけ、同じ事がある。
「人とは違う生き物が、この御山に入れるなんて。」
嚴が呟く。
「そうだね。」
ユタが考え込む。
「私、山守に攫われる先を見たんです。」
「エッ。」
ナタの爆弾発言に、嚴とユタが驚く。
祝辺は鎮野にも大泉にも手を出せない。だから他の山より豊かで、心穏やかに暮らせる。なのに祝辺が、隠の守が使い隠を連れて押し寄せた。
大泉の社の司は水を操る力を生まれ持ち、血の流れも操れる。
人や獣には強いが、血と肉を持たない隠には効かない。けれど禰宜には清め、祝には守りの強い力が有る。隠を弾き飛ばし、遠ざけられるハズ。
「それでも大泉は、祝辺に?」
「はい。」
ナタの話を聞き、嚴が先見を試みた。けれど、幾ら力を揮っても見えない。いや見えるのだが、見る度に変わるので定まらないのだ。
祝辺の隠に襲われた大泉は、直ぐに民を守るために動く。
社の司は湖に舟を浮かべ、民を乗せて真中へ。禰宜と祝は力を合わせ、隠を押し戻す。継ぐ子も力を揮い支えるが、ナタが命を落とす。
娘を失ったタエとタラは人なのに、生きたまま鬼になってしまう。深い悲しみと憎しみに呑まれて。
暴れる二人を止めるのは良村、大蛇社の祝マル。知らせを聞いて飛んできたが、どうする事も出来ない。
「私もね、同じ先を見たわ。」
嚴が見たのは、もっと酷い。
「御山が崩れて。」
「えぇ。多くの命が奪われ、闇が溢れるの。」
霧雲山系は水が多い。祝辺にある頂が崩れれば、滑や坦が崩れた時より大事になる。




