16-49 お招き、ありがとう
信じられない。
いいえ違うわ、信じたくないの。私の子か孫か、その子か、その子の子か孫か。
「おかしい。」
この力は母から娘へ受け継がれる、恐ろしく強いモノ。私に似てるなら娘か孫よね。
「どうして。」
力の受け渡したら、気を失う前に守り袋を譲るわ。人で無くなるなら、その子を狙う『何か』は禍。遠ざけるか助けてくれるハズよね。
「ナタ。」
「紅さま、お願いがあります。」
「その願い、叶うかドウか分らないが聞こう。」
「私を少しでも早く、先見さまに会わせてください。」
顔が暈けて良く判らない。でも、どうしてかしら。心が、魂が揺さぶられる。そんな気がするの。これは、この思いは・・・・・・恋?
父さんが言っていたわ。母さんを一目見て、心がギュッとしてビビビとキタって。
誰に何を言われても守りたい。振り向いてもらえなくても、共に生きられなくても守り抜く。そう決めたって笑いながら。
「エッ。」
熊を弓で、たった一本の矢で仕留めたわ。そんな事、人に出来るとは思えない。となると、あの生き物は人に化けられるか、人と同じ姿をしているのね。
「読まなきゃ。」
どうすれば見分けられるのか、判るまで!
母さんが言っていたわ。良村の子は強くて優しくて、生きることを諦めない。
言の葉が出なくても思うように動けなくても、考えて考えて力を尽くす。生きて良村に戻ろうとする。
だから良山を出ても戻れるって、迎えに来てもらえるって。
母さんは添野で生まれて、茅野に引き取られて良村の子になった。野呂で父さんに会って、大泉で幸せに暮らしている。それでも楽しそうに、良村の話をしていた。
良村には夢見草という、とても美しい花が咲いている。犬好きが多くて朝夕、広いトコロで木の枝ポーンをして遊ぶ。
アチコチに罠が仕掛けられているから、忍びでも良村に近づけない。
「そうよ、そうだわ。」
母さんは良村の子。大泉は霧雲山の一つで、良山はズッと南に聳えている。だから迎えに来てもらわないと、良村に戻りたくても戻れない。
「違う、選んだのよ。」
私には御姿を見せてくださらなかったけど、母さんにはクルさま、シナさま、フサさまが憑いている。だから『戻りたい』と言えば良村に戻れた。
「私も決めなきゃ。」
大泉と鎮野の間には、深くて大きい谷がある。でも隣だから、その気になれば戻れるでしょう。
でも戻らない。大泉に居たら守れないから、大泉を出たんじゃない。なのにウジウジ悩んでアレコレ考えて、守りたいものを守れるの?
「もう迷わない!」
母さんはクルさま、シナさま、フサさまに。父さんに何かあれば母さんが悲しむから、父さんも守られる。
私には何も憑いてイナイ。だから、己の身は己で守る。
「♪ 諦めず出来ることをして♪」
片足づつ交互に、軽く飛び跳ねながら進む。
「♪俯かず上を向いたなら♪」
二人、楽しそうに歌っているのはティ小のうた。
「♪何か良い事が起こる そんな気がするのよ 泣いてはイラレナイ♪」
トントンッ。
「紅さまに言われて来ました。」
「お招き、ありがとう。」
ユタと嚴、手を繋いで歌いながら登場。




