16-48 違うんだ
鎮野には根の国へ続く口が、大泉には地の底へ続く口が開いている。
何れも国つ神が御守りくださるので、人が迷い込む事はない。
「海を越えて来る、人とは違う生き物が霧雲山に入る。祝辺の守に隠れて。」
ん。
「根の国から闇が噴き出し、鎮野を襲う。」
んん。
「人の守が隠を動かすが、隠の守は動かない。」
んんん。
「人とは違う生き物が、その。」
あぁ、そうか。死ぬのか。
祝の力を持つ子がスクスク育つので、鎮野は他より生まれる子が少ない。少ないが死なない。だから祝辺の守は、祝社は鎮野の継ぐ子を狙う。
鎮森から山守に入るよう、迷い込むように罠を仕掛けて。
もし掛かっても、守になれなかった隠が助ける。だから皆、鎮森を恐れない。
恐れないが困った事にナラナイよう、シッカリと備えている。それでも幾人か、姿を消してしまう。
「『祝社に引き渡せ』と言われないように、この家と社に閉じ込めて隠すのですね。」
祝の力を持たない人は、祝の力が何なのか良く分からない。
それでも社の司は人の長。従わなければ、守りたい何か、誰かを守れずに失う。
「人の長でも抑えられない何かが、霧雲山の中で起こるのですね。」
守れない、失うと判れば動く。祝の力が無くても、命と引き換えにしてでも守り抜けば良いと。
「・・・・・・そうだ。」
恐れてはイケナイ、怯えてもイケナイ。どんなに辛くても怖くても読まなければ、先を読まなければ前に進めない。
鎮野の先見さまが見たのは、前に見たアレだろう。他とは違う目をした嬰児を、多くの力を生まれ持つ子を産む。
それは娘か、その娘か。
「紅さまは人の長。鎮野を守るためなら、何だって為さる。なのに迷いながら隠すのは、先読の力が欲しいからですか。」
「違う! タエの子を、ナタを守りたいんだ。」
母から娘の一人へ受け継がれる祝の力は、とても強くて恐ろしいモノだ。先見さまは鎮野から、社からも出られない。死ぬまで閉じ込められ、守られる。
力を受け継ぐ子が生まれるまで、命懸けで子を産む。
先読の力は先見より使えるので、戦好きから狙われてしまう。だから力を隠し、社でヒッソリと暮らす事が多い。
老いれば眠るように死に、力を持たない隠になる。
「鎮森へ行けと。」
「いや、違う。」
「鎮森に入り、隠に確かめさせようと。」
「違う。違うんだ、ナタ。」
先見さまから聞いた時は驚いたが、人でない『何が』が全て悪いとは思わない。思わないが、人とは違うソレが人と契る。
子が生まれ、その子が力に溺れたら。
怖い。ナタは大泉を守るため、鎮野に移り住んだ。まだ子なのに、たった一人で。
禍が齎される前に外に出て、祝辺を巻き込んで戦おうと考えたのだ。
「ナタ。黙って、良く聞いてほしい。」
守りたいのは大泉で、鎮野ではナイのだろう。何かを誘い寄せるために飛び出して、力を揮いながら鎮森の奥へ奥へ。
そして捕まり、人で無くなる。