16-45 あの子は守られている
鎮森。
森に認められなければ、どんなに強い祝の力を持っていても生きて戻れない。国つ神の愛し子が入れば驚かせないよう、ゆっくりと木が動いて戻そうとする。
最短距離で。
「おはようございます。」
ユタが外から声を掛ける。
「おはよう、ユタ。」
紅が外に出て、ユタの頬に優しく触れる。
「少し熱いな。」
ユタの兄も姉も、生まれて直ぐに死んでいる。ユタも、そう長く生きられない。そう思われていた。
少しづつ体が強くなっているが、スッと消えてしまいそうで怖い。
舞も満も、生まれた子が死ぬ度に深い悲しみに包まれた。
だからユタを、生き残ったユタを守るにはドウすれば。そんな事ばかり考えている。
「家まで送ろう。」
「紅さま、こちらを。」
「エッ。」
ユタが差し出したのは、とても美味しそうな桃の実。
「鎮森で生った実です。ナタに。」
「夜、あの森へ。」
「違います。朝の山歩きで、生っているのを見つけました。山桃湖まで行っていません。」
キリリ。
小柄で弱弱しいユタが、大泉から来たナタのために森に入った。それダケでもスゴイ事なのに、ナタはユタの力になりたいと考えている。
「紅さま。木が、森の皆が言うのです。あの子は守られていると。」
守られている?
「首から提げているのは守り袋。良村で、大蛇神の愛し子が作った品。」
なぜソレを。
「愛し子は他の子と違い、強い力を生まれ持ちます。マルさまに勝てる人、追いつこうと考える人も鎮野に居ません。というより、この御山に居ません。」
霧雲山の統べる地にも、ね。
「マルさまはナタの母さまに、良山の外でも生きられるようにと守り袋を作ったのでしょう。それをナタが譲り受けた。」
「どうして。」
そんな事を知っている。
「赤い目をした、白く輝く犲の隠に聞きました。」
犬の名はジル。
山守の民に捕まり、甚振られて死んだ白子。隠になっても憎しみは消えず、苦しんでいた時に出会う。金髪紫眼で青い服を好み、大の犬好きだったエンに。
人の世に留まるのはエンと暮らした、あの洞を守るため。エンが愛した全てを、思い出を守りたい。そう思っている。
「名を聞いたのですが、他の人に呼ばれたくないのでしょう。教えてくれません。」
「そうか。」
「その御犬が、この実が生っていた木を教えてくれました。嚴も同じ実を食べましたが、イキイキしています。」
「食べさせたのか! 先見さまに。」
・・・・・・ニコッ。
ユタと嚴は幼馴染。
病弱なユタではなく、他の子を。という話が何度も出た。けれど『ユタと契る。他の男となんてイヤ! 考えられない』と言って大泣き。
困り果てた御婆さまは社の司、禰宜、祝に相談。その結果、ユタが丈夫に育ったら契らせる事になる。
つまり二人の仲は鎮野社公認。