16-44 子の幸せを願って
母から娘の一人に引き継がれる祝の力は強い。だから息を潜めて、隠れるようにして暮らす。
もし知られたら逃げる。逃げて逃げて逃げて、次の隠れ家を探す。
狙われるのは先見、先読、闇。水や風、毒使い。逃げられれば良いが、捕らえられればオシマイ。
その多くが酷い扱いを受け、子を逃がして死ぬ。
「着いたぞ。下ろすから、そのまま。」
「はい。」
大きな、とても大きな犬に見つめられている。
尾が垂れているから犲。いいえ、きっと大神と崇められて死んだ隠だわ。使わしめかしら。
食べられたり、齧られたりシナイわよね。
どうしよう、さっきから見ようとしているのに見えない。読めない、なんて事・・・・・・あるわ。だって人だもの。
「お久しぶりです、昼さま。」
「お久しぶりです、亀さま。」
傍に居るダケなのに、逃げる気なんてナイのに体が動かない。怖くて恐ろしくて離れたいのに、どうして。
上手く息が出来なくて、頭がボゥっとしてきた。
「えっ。」
胸が光って、いいえ違う。清らな力に包まれ、守られているんだわ。
「ナタ、こちらへ。」
「はい、亀さま。」
救い出されても家がない、縁の者も居ない。そんな子は(やしろ)に引き取られる。
祝辺から逃げるように茅野、良村、野呂、大泉に移り住んだタエ。
その娘、ナタが首から提げているのは良山、良村の守り袋。それも大蛇神の愛し子、マルが作った品に違いない。清めと守りの力が込められている。
子の幸せを願って、譲り渡したのだろう。
「大泉から来ました。タエとタラの子、ナタです。」
ペコリ。
「鎮野神の使わしめ、昼だ。紅。」
「はい。」
知ってる、母さんから聞いたわ。鎮野の社の司で、遠く離れたトコロに居ても木を通して話せる、強い力を持っている人。
鎮野社では祝の力を生まれ持つ、祝辺に狙われて逃げてきた子は離れで暮らす。継ぐ子になる。
継ぐ子になってイロイロ学んで、大きくなったら祝人か祝女になるって聞いた。なのに私は違う。
「はじめまして。鎮野の社の司、紅です。さぁ、こちらへ。」
「はい。」
鎮野神に鎮野で暮らす御許しをいただいた。
鎮野社の継ぐ子になるけど、後見は紅さま。これから紅さまの家で暮らす。でも私はタエとタラの娘、大泉の子。
『それで良い』って、そう言われて嬉しかった。女の子ばかりで驚いたけど、男の子が居なくてホッとした。
「あら、この湯。」
淡く光っている。それに少し、甘い香りがするような。
「ユタ、舞と満の子が桃の葉をくれたんだ。」
「鎮野には桃の木が生えているのですか。」
ワクワク。
「鎮森の近くにね。けれど、この葉は違う。山桃湖の近くに生えていた木から一枚、分けてもらったそうだ。」
エッ。
「ナタ、お聞き。鎮森は試しの森。近づくのは良いが、足を踏み入れてはイケナイよ。」
「はい。遠くから見るダケで、近づきません。」




