16-43 強くなります
タエとタラの子が、強い先読の力を受け継いだ子が来る。名はナタ。
「紅さま。」
舞と満の倅、ユタが駆けてきた。
「ん、それは。」
「桃の葉です。」
ニコリ。
御神木に選ばれ、木の声が聞こえるユタは鎮森に愛されている。病弱だったが丈夫になったのも、鎮森の力だろう。
何かに呼ばれた気がして、誰にも何も言わずに入った。森の木は転ばないように根を上げ、通してくれたトカ何とか。
他にも桃の実が美味しかったとか、歩き疲れて寝入ってしまったとか、楽しそうに話していたな。
「大泉から来る子に、この葉を入れた湯を使わせなさいって。」
ホウホウ。
「紅さまの家で暮らすと聞きました。だから、どうぞ。」
「ありがとう。」
先見や先読の力を持つ継ぐ子の中には、ナタを『閉じ込めろ』とか『送り返せ』と言う子が居る。けれどユタはナタのため、この葉を持ってきた。
強い力を生まれ持ったワケではないが、鎮森に認められた子だ。次の社の司になる事が内内に決まっている。
そんな子がナタのために持ち帰ったのが、この葉。
「ユタ、ユタ。」
「はぁい。紅さま、また明日。」
「はい。また明日。」
母に呼ばれ、駆け出したユタが転んだ。ゆっくり起き上がったが、その目は潤んでいる。
「送ろうか。」
「いいえ。」
ナタは大泉で生まれたが、他の子と違って離れでは暮らさない。合わないようなら大泉に戻すか、良山に送り届ける事になっている。
それを知っているのは社の司、禰宜、祝の三人。
離れで暮らすのは祝社から、祝辺の守から逃げた子。親に会いたくても会えない、そんな子。
先読を持っているのだ、上手く躱すだろう。けれど、もし。
「強くなります。」
「えっ。」
「強くなってナタ? 大泉から来る子を守ります。」
「そうか。」
「はい。」
・・・・・・守れる、のだろうか。外を駆け回れるようになったが、平らなトコロでも良く転ぶ。
先見さまが御力を揮われるから、困った事にはナラナイだろう。けれど今でも、体が弱い。
「紅。こちらへ。」
「はい、昼さま。」
鎮野神の使わしめ、昼は大きなニホンオオカミの隠。その名の通り昼、担当。夜と交代で仕えている。
鎮野には根の国に繋がる口がある。その口を御守りくださる鎮野神は、その姿を御見せ遊ばす事がない。と言われているが御姿が見えない、御声が聞こえないダケ。
人の世に御坐す。
「頼みますよ、紅。」
「はい。」
ナタが鎮野に居る間は、どんな事があっても守り抜く。守り抜かねばナラナイ。