16-41 先読の力は失ったが
先読は先見と違い、幾度でも選べる。択んで選んだ末が変わる事は少ないが、無くはナイ。
見ようとすれば見られるのに、どんなに努めても見られない。見えなければ、どうする事も出来ない。
「三さま。良村に御坐す大蛇神に急ぎ、お伝えしたい事が御座います。」
「ウム。ココは大泉、大蛇社より和山社が良かろう。」
と言って方向転換。
「タラ。」
「うん、気を付けて。」
「ありがとう。」
先読の力は失ったが、タエには見る目と聞く耳がある。とはいえマルのように、人の世と隠の世を行き来する事は出来ない。
「亀さまぁ、聞こえますかぁ。」
大泉社は湖中に在るので、石積みの分社が畔に建てられた。その分社に頭を突っ込み、三が叫ぶ。
大泉神の使わしめ、亀は蓑亀の妖怪。只今、隠の世に出張中。
「・・・・・・御歳だからなぁ。」
三も亀の妖怪だが草亀、石亀、鼈の隠が集まって誕生。亀より若いがソコソコ貫禄がある。
「年寄り扱いするでナイ。ほれ見よ、ピチピチして居るわ。」
ヌッと湖面から頭を出し、(ひれ)をパタパタしながら浮上。人の姿に化けた亀が胸を張る。
「御髪に白いモノが。」
三がスッと目を逸らし、ポツリ。
「ナッ! タエ。真か。」
「・・・・・・はい。」
ガーン。
母から娘へ引き継がれる、強い先読を持って生まれた子が、鎮野で生まれた子が祝辺へ行くとは思えない。考えられるとすれば、己が鎮野に居れば禍を。
いや違う。己を狙う何かから鎮野を守るため、鎮森に囲まれた祝辺へ移り住むのだろう。暮らすのは祝社ではなく、その離れ。
「タエ。他に何か、覚えている事は。」
「はい、大蛇様。その子が持つ祝の、清めと守りの力はマルより強いと思います。」
「ナニッ。」
祝の力を二つ三つ、持って生まれる子は居る。居るが何れも弱く、見聞きするのがやっと。
マルは鴫山の祝女、強い守りの力を持っていた祖母が己の子を守るため、命と引き換えに力を揮う。
生まれた子に力が無ければ幸せに暮らせると考えたのだろう。
祝の力を持たずに生まれた幼子は川北に、成人後は北山に攫われた。
そこで清めの力を持つ祝人と契らされ、生まれたのが清めと守りの力を持つ娘、マル。
「幾度も先を、けれど読めないまま。」
産気づき、力を。
「そうか。」
「明日の昼過ぎ、目覚めたナタは言います。『鎮野へ行く』と。」
鎮野には社の司になった紅、祝人になった満、祝女になった舞が居る。頼めばナタを引き取り、鎮野社の継ぐ子として育ててくれるだろう。
祝辺の守は、祝社は大泉と鎮野に手を出せない。強い祝の力を持つ子が生まれたと知っても、その子が愛し子でも愛し子でなくても手の足も出ない。
「タエが見たモノと同じモノを見て、か。」
「はい。」
 




