16-40 アレを見たのね
外が騒がしい、ような気がする。
カンだよカン。遠くまで見えるようになったケド、耳はね。
近くに落ちたら聞こえるケド、大きな音だから聞こえるんだよ。遠くは見えても聞こえない。
「いつまで待てば戻れるんだろう。」
はじまりの一族は人じゃない。その血が人体に入れば拒絶反応を起こし、細胞が壊死。異常増殖する事も。
「ムクムクっと増えてバァン。」
・・・・・・イヤだな。
「ジロは待つよ♪ って、ん。」
愛さえあれば年の差なんて。が有効なのは上下、何歳差マデなんだろう。
十年以上離れていると、話題に困るよね。
「いやいや、親子じゃん! 下手すりゃ孫じゃん。」
マズイ。幾ら何でもソレはマズイぞ、マズ過ぎる。
好み? 聞かないで、言えない。でもソウだなぁ。フワフワなのにシッカリしていて、はにかんだ笑顔がステキな女。
キャッ、言っちゃった。
いつだったか聞いたんだ。そしたら教えてくれたよ、照れながら。父さんは母さんを、母さんは父さんを目で追っていたって。
仲良しだもんなぁ。親になっても子の前で、手を繋いで歩くんだよ。
「アンリエヌは山国だから、釣りより狩りだよネ。」
宝の力なんてナイから、熊をババンと倒せない。でも急所を狙えば一撃、は無理でも倒せると思う。
「フクさまが言ってた。熊肉を食べれば体がポカポカして、お肌がプリプリになるって。」
うんうん。
「大弓を引けるように、腕を鍛えなきゃ。」
ジロがプニッ、プニッと腕立て伏せを始めた。
同じ頃、やまと人の世。霧雲山系、大泉山。
「キャァァッ。」
絹を裂くような悲鳴が山中に響く。
気絶した子の名はナタ。タエとタラの娘で、先読の継承者である。母から先読について、とても詳しく教わっているので取り乱す事はない。
タエは先読を継承したナタに、マルから貰った守り袋を譲った。
だから、だろうか。涙を流して怯える事は有っても泣き叫んだり、気を失う事はなかった。
そんなナタが倒れたのだ。
「ナタ!」
末娘の悲鳴を聞き、駆け付けたタラが叫ぶ。
「オイっ、シッカリしろ。」
頬をペチペチ叩きながら声を掛け続ける。
「コレコレ、そんなに叩くでない。気を失っているダケだ。聞こえないと解って居るが、おぉい。」
大泉の社憑き、亀頭の三が鰭でペチペチ。
「ナタ。アッ、三さま。」
「おぉ、タエ。よく来た。」
良山から野呂、野呂から大泉に移り住んだタエはナタを出産する前に見た。
己に似た娘が鎮野で光の鏡、光の剣、光の珠を持つ子が生まれるのを。
清めと守り、先読、木の声を聞く力も生まれ持つ嬰児は三つで祝辺へ。五つで血を吸う生き物に襲われ、人とは違う何かに。
目と髪の色が変わり、肌が白くなってハッキリした顔になる。
「アレを見たのね。」
タラの腕の中でグッタリしているナタの額に触れ、タエが呟く。
「そうか。恐ろしい『何か』を見て、気を失ったんだね。かわいそうに。」
両親の思いが通じたのか、真っ青だったナタの顔色が良くなり、スゥスゥと安らかな寝息をもらす。




