16-39 受け入れるしかない
瀕死のジロを救う方法は他にもあった。にも拘らず、その肉体を奪った理由は一つ。
「隔世型優性遺伝。」
予知の才を以てしても未来は変わる。変わるのだが変わらない事があった。
「フッ。」
理に反したソレは希望。
ジロは人だが人とは違う。
それでも人の子の親になり、孫が生まれる前に老いて死ぬ。その子が母方、父方が持つ力、全てを継承。
残った王族は少ないが、新たな一族と違って永遠を生きる。処分されない限り。
生殺与奪の権を握るのは、その才を奪った化け王のみ。
「成行きに任せるのも悪くない。」
人として死なねば即位できぬが、生き長らえれば人として死ねる。
「遺せるだけ遺そう。」
ジロの体を奪って四年。
一年かけて確かめたのだ、戻しても耐えられる。けれど問題が一つ。
「かっカッ、カー。」
壁面に塗り込められていた大王、目をギョロギョロさせながら口角を上げる。
「兄上、落ち着いてください。」
「そのスがた、ワッ。」
ドタン。
ジロの肉体に魂を戻してから馴染むまで、どんなに早くても一年はかかる。
化け王城内から出す気はナイが、衰弱した兄姉が狙うカモしれない。だから長兄を出し『間違いが起きぬよう、重ねて注意を』と思ったのだが。
「貧血ですか。」
一滴残らず抜きましたが、才を失っても王族。造血機能を活性化させられるでしょう?
「そのヨうだ。かっカッ、カー。」
烏じゃないんだから。
「何ですか。」
生まれたての小鹿のようにプルプルする兄を突き放せるホド、カーは冷たくない。
「ベンをトッ、止められずスッ。すまなかった。」
右手を胸に当て、首を垂れる。
「兄とシテ、謝罪スル。」
丸くなりましたね、エド大王。
正妃から生まれた第三王子、ベンは異母兄弟を嫌っていた。
化け王を、収集の才を警戒していたのだろう。第五王子であるカーを戦場に送るよう父王に進言。それを窘めたのは第一王子、エド。
アンリエヌを統治するのは大王、化け王など不要。
収集の才は反逆者を無力化し、収監するためのモノ。化け王は大王に忠誠を誓う看守。それが思い込みだと気付いたのは、才を奪われた後。
「たノむ。」
仮死状態になれば数万年、耐えられる。古い文献にあったが大嘘だ。
「ベンとウィを。」
『今、直ぐに』とは言わない。柱から出してやってほしい。
「・・・・・・闇に生きると。」
「はい。」
カーは我らをアンリエヌから、旧王城地下から出す気はない。永遠に。
受け入れるしかない。才を失った王族は、はじまりの一族は化け王に縋らなければ生きられぬと。




