16-36 実体が有ろうが無かろうが
特質系、防禦の才でタルシェを囲んだ。領海および領空侵犯すれば即、消滅。正確には分類され、特殊空間に格納される。
長生きしたければ渡航免状を取得し、入国許可が下りるまで待とう。
「うわぁ。」
タルシェへの移住を希望したのは、タルシェ民族の末裔。もちろん、全てではナイ。
「日差しが強い。」
一年中温和で、夏に雨が少なく冬に多い。
タルシェはムルピア海東部、アルティア海南部に浮かぶ島。といってもソコソコ大きい。
さほど肥沃な土地ではナイがオリーブや葡萄、柑橘類、バナナ、ナッツ類の栽培に適している。畜産も可能。
「山に囲まれているから、湧き水が多いのね。」
大きな川は無い。けれど高峰の頂には、万年雪が積もっている。
前述の通り、降雨は冬季限定。年間降水量は500から620㎜。水不足になっても飲料水、生活用水はアンリエヌから運ばれるので心配ない。
旧タルシェ王城とアンリエヌ城を才で繋いだので、申請書を出せば転移可能。ただし平日、十時から十六時の間に限る。
「言い伝えの通りだ。」
キラキラ輝く海面を、イルカの群れが泳いでいる。
「これがオリーブ。」
アンリエヌにも葡萄の木は生えているが、オリーブの木は生えてイナイ。
「いっぱい育てて、良質なオリーブオイルを作ろう。」
「葡萄酒もネ。」
キャッキャ、うふふ。
タルシェがギリシャに侵略され、多くの人が入植したが逃げ出した。
詳細は不明だが、どうやら出るらしい。夜な夜なスゥっと現れ『出て行け』とか『助けて』と、呻くような声が聞こえるトカ何とか。
実体が有ろうが無かろうが、アンリエヌの民なら戸籍登録される。
魔物なら化け王城で研修を受け、合格すればタルシェ城の管理魔として採用。不採用でも旧王城の地下で、特別管理魔として採用。
モチロン危険手当つき。
何れも労働時間は週二十五時間、週休三日制。各種保険および寮完備。三食オヤツ付き。
「魔物にもなれず、彷徨っていた。」
うんうん。
「そんな亡者をアンリエヌの民として、あたたかく迎えてくださった。」
ジィィン。
「化け王に心からの忠誠を誓います。」
「誓います!」
キリッ。
希望者は冥界へ送り出した。
けれど恩義に報いず、この島を離れられないと主張する亡者がチラホラ。その大半がアンリエヌに移り住んだタルシェ民族の先祖。
子孫が安心して暮らせるよう、せめて落ち着くまでは残ろう。そう考えたのだ。
窶れて落ち窪んでいた目は輝きを取り戻し、纏っていた闇は完全に消失。子孫を優しく見守っている。
これから先、万が一の事が起きる前に片付けてくれるだろう。己らと同じ思いをさせぬよう、死に物狂いで。
「タルシェの風だ。」
「温かいね。」
これからも良い風が、タルシェに吹きますように。