16-35 お待たせしました
タルシェがアンリエヌ領になった。その知らせはローマにも届き、皇帝や将軍たちを慌てさせる。
アンリエヌは強国。
タルシェを足掛かりにムルピア海、周辺諸国を征服。領土拡大してもオカシクない。そう考えたのだ。
「思った以上に荒れているな。」
島の三分の二は不毛な岩場で、入り組んだ海岸線に険しい山が切り立つ。
「入植者も逃げ出したか。」
気候は温暖だが比較的、乾燥しており平和と充実の象徴、オリーブの栽培にも最適。
「塩害?」
は無い。放置されたと思われる畑に、葡萄の木が生えている。
観光資源にする予定なので、遺跡が眠る場所は後回し。タルシェ王朝時代、畑だった場所を中心に調査開始。
「これで良かろう。」
才を使えば、どんな荒地も耕地になる。
「次は家屋。」
タルシェ建築で、と思ったが止めた。
「石や煉瓦より圧縮に強く、耐火に優れたコチラを。」
地下一階、地上二階建て集合住宅はコンクリート造。
「おやおや。」
西方より生命体が、こちらへ高速接近中。
タルシェ上空に現れたのは、大きな翼を持つトカゲ。ではなく飛竜。
着地点を探すも、下手に着地して何かあれば一大事。旋回しながらグルグル悩む。
はじまりの一族というダケでも厄介なのに、相手は収集の才を生まれ持つ化け王。それも歴代最強と謳われるカー王で在らせられる。
「命を吸われたいか、魂を吸われたいか。好きな方を今、直ぐに選べ。」
エッ。
「飛竜は捨てるトコロが無いからな、建材に」
「只今! 直ぐに参りますぅぅ。」
飛竜、急降下。海面着水してからフワリと離水し、タルシェに上陸。
「お待たせしました。」
ゼイゼイ、ハァハァ。
肩で息をする飛竜は顎の下に七色の鱗を持つ、火属性の災害級魔獣。オス。卵時代、何代目かの化け王に遭遇。
未熟児として誕生した理由は一つ。『旨そうだ』と聞こえ、慌てて殻を飛び出したから。
アッサリ捕まり、『短い竜生だった』と心中で嘆く。が次の瞬間、『偶には肉も』と言われ号泣。
怖いよ眠いよ、死にたくない。プルプル震える幼竜に同情した化け王は、アンリエヌに禍を齎さない事を条件に放つ事にした。
「なぜ起きた。巣へ戻ると良い、眠かろう。」
「はい、ありがとうございます。ん? 恐れながら。」
「申せ。」
「はい。はじまりの一族はアンリエヌから出ぬと昔、伺いましたが。」
ドキドキ。
「タルシェもアンリエヌ領となった。」
そうなんだ。・・・・・・ホエッ。
「案ずるな。コルイノには手を出さぬ。」
ホッ。
「許し無く近づけば、解るな。」
「ヒャイッ。」
領空侵犯のみならず、領海侵犯までシテしまった。鱗、いや爪の一本二本奪われても文句は言えない。
「行け。」
「はい、おやすみなさい。失礼しますぅ。」
翼を広げて助走し、空へ。